第三章 クジラ駅運転見合わせ

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 先程の触手生物との遭遇もあり、部屋の探索は一緒に行うことにした。  案の定左手前の部屋――オフィスのようだ――の先で触手死体と遭遇した。先程と違い白衣ではなくオフィスカジュアルだ。  何事かを呟いている姿を見るのは二回目だけど、塔崎さんは初めてなので、ギョッとした表情を浮かべる。 「なに……もしかして生きているの?」 「そう見える?」  肩から伸びる触手。覚束ない足取り。 「んなわけ、ないよね」  次の瞬間には金属バットが触手死体の頭にクリーンヒットした。  金属腕を構える。ここまで奮闘してもらったがやはり武器ではないので劣化が激しい。  それでも、 「ほら! 笹島くん! うしろっ!」  もう少し頑張ってもらおう。  しばらく交戦が続き、最後の触手死体が沈黙する。返り血が制服に付着し、その鮮やかな赤色が生の実感をもたらす。塔崎さんの金属バットから返り血が滴る。 「ねえ笹島くん」 「ん?」 「こいつら……どこから来たの?」 「さあ」  地球外生命体であるなら、地球外から来たに決まっている。  遠い星々の合間を縫いここに辿り着いたのだ。目的地はどこだろう。  ターミナルである地球までその醜悪な触手を伸ばすつもりなのか。 「ごめん、わかんないよね」 「謝るなよ、ボス」 「やめてって、それ。もう私の助けが必要な子なんて、いないんだから」  それより探索、と塔崎さん。  暴れ回ったせいで、オフィスはさらに混沌とした様相を呈することになった。  散らかった書類に靴跡がつき、返り血でほとんど読めず、デスクトップPCも使い物にならない。ここでは情報を得られそうにないと思い、倒れた小さい冷蔵庫から数個の保存食を手に入れたとき、 「ちょっときて!」  塔崎さんからの呼び出しがあった。足の踏み場を作りながら近づくと、 「これわかる?」  彼女は小さな金庫の前で首を傾げている。  金庫を見る。  鉄製で正方形の至って普通の金庫だ。モニターに三桁の数字を入力するタイプだ。 【今週のパスワード】  Cu + Ni + Ar + Au    ↑  これそろそろ止めたいと思う人、次回の定例会向けに署名求む!  どうやらこの数式が金庫のパスワードらしいけど、普通の計算ではなさそうだ。 「……ほら笹島くん、出番だよ」 「勘違いしているようだから言っておくぞ」  キョトンとする塔崎さん。 「もう少しでペナルティ目前だった」  もうどうでもいいが、遅刻に赤点と呼び出し寸前だったのだ。 「えぇー! マジ?」  結局、答えはわからなかった。  しばらくしたら浮かぶかもしれないと、今にも金属バットで強硬手段に出ようとした塔崎さんを説得し、次の部屋に向かうことにした。
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