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クジラ駅――『Deo-1』。
貨物仕分けエリアの薄暗い部屋に、二人の作業着姿の男性が立っている。
部屋の大きさは十五畳ほどで、大きな段ボールが乱雑に置かれている。男性らの作業中の動きで自動ドアが何度も反応し開くが、段ボールにぶつかり僅かの隙間しか開かない。
「お前……型番は?」
一方の若い男性が言う。
「EDO 2020 No.2592-26 通称マキタです」
「マキタ、お前……夢とかあんの?」
マキタは答える。
「私ノ夢ハ、人類ノ永久的ナ繁栄ヲ、サポートスルコトデス」
若い男は、ははっと笑い、
「同情すんぜ」
「アリガトウゴザイマス」
「褒めてねぇ」
一人と一台の気まずい作業は手を休めることなく続いている。部屋の空気は天井に設置された埃まみれの換気扇が入れ換えているが、あまり効果はない。
ふと、マキタが天井の換気扇を見つめる。
「エマージェン――」
そこで、マキタの声は途切れた。
不審に思った若い男は背後を振り返る。
「なっ……」
段ボールや壁に飛び散る白色の液体。
頭から火花を散らし、横たわるマキタ。
換気扇があった穴から伸びる、粘着質の触手。
「警備ぃぃぃぃぃぃぃ!」
若い男の瞳に、伸縮する突起が映る。
『パーソナル……データ……消失。常世システム……アクセス……緊急警報……発令申請。緊急プロトコル実行……常世システム……承認申請……。申請理由、未知なる生――』
それがマキタの最期の声となった。
*
同フロアは阿鼻叫喚の渦に吞み込まれている。
「きゃあああ!」
悲鳴を上げた駅員の口に躊躇いなく触手が突っ込まれる。
息が出来ずのたうち回り、やがて苦悶の表情で事切れる。
突然の地球外生命体のアポなし訪問は、クジラ駅の業務を妨害するのに十分だった。
多くの駅員たちはマニュアルに記載されていない事態に対応できずに、次々と地球外生命体たちの餌食になっていく。
マキタと同型のヒューマノイドロボットたちも伸縮自在の触手に対応できず、次々に機能を停止していく。クジラ駅が彼らに占拠されるのも時間の問題だ。
『緊急警報――緊急警報――未確認生物の侵入を検知――緊急プロトコルを発令』
やがてフロア中に緊急プロトコル発令を知らせるサイレンが鳴り響くも、耳にした駅員は誰一人としていなかった。
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