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小学生の時、住んでいた家の近くに小さくて寂れた駄菓子屋があった。
中年の髭面のおじさんがうちわ片手に店番をしていて、いつも大工がするように鉛筆を耳にかけていた。思い切り百円を握りしめていたので、いつも掌が金属臭かった。
この頃のおやつは、三十円のグミのようなお菓子と二十円のチューブ型のジュースだった。
夏休みのある日。
ビンに蝉の抜け殻を入れる遊びに飽きた俺は、公園で手を洗って水分補給して駄菓子屋に向かった。道中で意味もなく走っては通行人のおばさんに『いつも新羅ちゃんは元気だね』と背中を押され、調子を良くして全力で走った。
着くころには内側が爆発したように熱く、キンキンに冷えたジュースを欲していた。軍資金はいつもの百円。二十円のジュースを二本にするか……あるいは。
『おっちゃん、あちぃ!』
店内に入るや、そう一言。
『冷たいもんでも食え!』
案内された先、店内の奥で、キンキンに冷えた冷凍庫。
『今ならアタリ付だ』
アイスキャンディーが宝石店に並ぶルビーやエメラルドのように見えた。
しかも値段は当時の俺からしたら宝石並みの七十円。
冷凍庫から滲み出る冷気が内側の熱を奪っていき、いつまでも側にいたいと思った。
『アタリが出たらなにくれるの?』
『もう一本。好きなのやんよ』
青く輝くブルーサファイアは格別だった。
『あ、シンラくん』
店の前、徐々に熱で溶けていくブルーサファイアを舐めていたとき、薄手の白いワンピースを着た幼馴染の間宮が手を振った。
『いいなぁ。わたしもほしいな』
『アタリが出たらあげる』
『ほんと? ぜったいだよ?』
『おとこに二言はねえ!』
残りの夏休み、間宮と定期的にアイスを食べに通った。
味が無くなるまで木の棒を舐めた。舐め尽くせばアタリが出ると思っていた。
中等部に進学し、間宮とは違うクラスになった。
きっとアタリが出なかったからだ。
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