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Rouge
あなたを見かけた。
鏡台の前に腰掛け、
無心に口紅を塗っている。
何度も、何度も。
珍しいことだと思った。
あなたは化粧が嫌いだから。
雪のような白い肌に
浮かびあがる紅。
馴染まない口紅の色。
ようやく塗り終えたと思ったら、
優雅と称するには程遠い手付きで
あなたは唇を拭ってしまった。
鏡台の前から立ち去る。
鏡の中には呆けたような
わたしの顔だけが残された。
目に焼き付いて離れない色。
水の流れる音が響く。
哀れな口紅は洗い清められて
また白い肌に戻るのだろう。
それでも、わたしは羨ましいと思った。
たとえ一瞬でもいい。
あなたにわたしを
刻み付けることができるなら……
日本語題:紅
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