Rouge

1/1
30人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ

Rouge

 あなたを見かけた。  鏡台の前に腰掛け、  無心に口紅を塗っている。  何度も、何度も。  珍しいことだと思った。  あなたは化粧が嫌いだから。  雪のような白い肌に  浮かびあがる(あか)。  馴染(なじ)まない口紅の色。  ようやく塗り終えたと思ったら、  優雅と称するには程遠い手付きで  あなたは唇を拭ってしまった。  鏡台の前から立ち去る。  鏡の中には(ほう)けたような  わたしの顔だけが残された。  目に焼き付いて離れない色。  水の流れる音が響く。  哀れな口紅は洗い清められて  また白い肌に戻るのだろう。  それでも、わたしは羨ましいと思った。  たとえ一瞬でもいい。  あなたにわたしを  刻み付けることができるなら……  日本語題:(あか)
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!