Perfume

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Perfume

「香水を贈るよ」  ふと思い付いたように男が言った。  何を言い出すのだろうと(いぶか)る私を後目(しりめ)に、  男は次々と香水の名を挙げ、楽しそうに指を折る。 「ローズやムスクはありきたりだし、バニラじゃ甘過ぎるよね。  シトラス系は季節外れだし、イランイランはまだ早いから……」  男は薄い笑みを浮かべて私を見た。  胡散臭(うさんくさ)い表情に私はうんざりと息を吐く。  作り込まれた笑顔はいつも通り完璧で、  私に真意を悟らせない ――― はずだった。 「ねぇ、何がいい?」  けれど、今夜は違う。  貼り付いたような笑みの向こう、  長く切れたその瞳の奥に  暗く渦巻く感情が見え隠れする。  あぁ、なるほど。なんて回りくどい…… 「キミには何が似合うだろう?」  私は小さく舌を打った。  いいだろう。そのくだらない悪ふざけに乗ってやる。  自身(おのれ)の子どもじみた振る舞いをせいぜい恥じるがいい。 「では、お前の香りを」 「ボクの?」 「そう、お前自身(じしん)の香りを」  男はしばらく考え込んでいたが、  やがてにやりと笑って(うなず)いた。 「いいよ。楽しみにしていて」  数日後、私のもとにひとつの小瓶が届けられた。  飾り気のない、何の変哲もない、ただの小瓶。  なかには白く濁った液体が、少し。 「さて……」  どんな香りか ―――――  日本語題:茉莉花(ジャスミン)の香り
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