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うそつき
「俺ね、来週誕生日なんだよ」
微笑みながらのんびりと先を見る……というか、くっそダリぃ。もっとおもしろい何かってねぇのか?なんて心の中では思っていたりする。
目の前を歩いて行く腕を組んだカップルやジョギングをする若い女、犬の散歩をする母親らしき女と子供。
川の向こうに夕日なんか沈んでいくしさ。
どこもかしこも平和かよ。何かねぇのか?
「えー!?じゃあ、お祝いしないとぉ!いつですかぁ?」
猫なで声で俺の腕にくっついてくる女をチラッと見て、面倒くせぇと思った。
そうか、俺も今はカップルなんだったわ。
「ん?水曜だから仕事。その日会議あって遅くなんだわ。ごめんな」
たったこれだけの間に嘘に嘘を重ねてさ……それがいつの間にか当たり前になって、何が本当なのかもわからなくなりそうだ。
いや、もうわかってないかもしれない。
とりあえず、俺の誕生日は4月なんかじゃなく11月で、水曜日は……会議だったか?それはわからない。適当に言ったから。
「えー!槇さん大変ですねぇー」
「ごめんな。リナちゃん」
眉を寄せて笑う女を見て、俺は申し訳なさそうに両手を合わせて頭を下げる。
そもそも俺、槇じゃねぇし。
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