(一)

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 てめえはただこっちの質問に正直に答えりゃいいだけだ。もし嘘こいたら、ただじゃおかねえ。シタ抜いてやるからな」 「やだ~、そんなの~」 「だったら、こくな!」 「じゃあ、煙草吸ってもいい?」 「なんだその交換条件!」  大きな目が剥かれた。 「てめえ、自分の立場わきまえろよ!」 「だって、吸わないと落ち着いて答えられないのよ~。ここ禁煙じゃないんでしょ~? 今日、もう何時間も吸ってないの~。あなたもわかるでしょ、このつらさ。あ、手が震えてきた~。これって脳がうまく働かなくなる前兆~」 「“あなた”ではなく、“閻魔さま”、もしくは“判事さま”と呼ぶように」   注意を入れたが、 「おねがい、おねがい、お~ね~が~い~!」  と、文机越しに厚化粧を彼に迫らせている被告は、聞いてはいない。 「うざい!」 「後生よ~!」  彼は顔をそむけながら、 「わかった! どうせは今この時が最後だ!」  折れた。  するとすかさず、金のラメラメポシェットから煙草ケースをとりだした被告は、中から極細の一本を抜きだし着火。 「で、名前は?」  細長い紫煙を吹きあげる被告に彼が問うと、 「羅麗華(られいか)で~す」  真っ赤な唇が陽気に答えた。 「られいか?」 「六波羅探題の羅に、麗しい華で、羅麗華」  と、被告は首をかしがせた。 「本名を訊いてる!」 「え~。だっても~ずっとこれで暮してるから~」 「てめえなめんなよ! こっちは冷酷無比といっただろうが!」 「本名はデータに入っておりますので、その尋問は省いても」  なめらかな審理進行も、私の重要な任務だ。 「―――いいたくなければ構わん。名前だろうがなんだろうが、いくら隠しても地獄行きは決定事項」  彼は一つ胸を上下させると、告げた。 「ど~して決まってるのよ~」  と、目を瞠った被告は、 「あたし悪いことなんて一切してきてないもん」  ころっとすまし顔に変え、判事机の灰皿に灰を落とした。 「嘘つくなっていっただろ! てめえの生前の悪事はすべてそのPCに保存されてあるんだ。たとえそれを嘘だっていっても、そのときのようす、動画でばっちりこれに映しだせるんだからな」  と、太い指は、私との間に設置されている『浄波璃(じょうはり)(かがみ)』を指した。  「おっきいわよね~このモニター。お店にあったのよりも迫力あるわ~。なんインチ?」
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