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「65インチです。それに、モニターではなく、死者の生前における善悪の行いを映す鏡です」
「鏡? 鏡なのに動画映しだせるんだ~。ハイブリッドね~」
「いえ、そういうことではなく―――」
「じゃあ、ちょっとミラーモードにしてくれない? メイク直したいから」
「うるせえ!」
憤怒の形相が割った。
「世間話は地獄に堕ちてからゆっくりやりやがれ!」
「そう怒鳴ってばっかりいないでよ~。つば飛んで汚いし、ただでさえあなたの顔怖くてすくんじゃってるんだから」
しれっと大嘘をこいた被告は、尖らせた口でフィルターを吸った。
「ルックス持ちだすんじゃねえ!」
やはり盛大につばが飛ぶ。
「てめえの顔こそ他人のこといえねえ鬼瓦じゃねえか!」
「女の子に対してそんないい方ないでしょ!」
「だから嘘こくんじゃねえっていっただろ!」
「なにが嘘なのよ!?」
「塗りたくった化粧顔に伸びかけの髭見せてる女の子がどこの世界にいるってんだ!」
あぁ~! という嘆きとともに、被告は両手で顔を覆った。
「髭脱毛まで、お金がまわらなかったんだもの~」
「髭だけじゃねえ! すね毛だってストッキングの間から顔出してやがるじゃねえか!」
ひゃ~! という悲鳴とともに、ボディコンの上体はくずおれた。
「おまけにその胸の膨らみも詰め物だってことは、先刻お見通しだ!」
おぉ~! という驚きとともに、元に起きあがった。
「だいたいなんだ! その盛りあがりすぎたふくらはぎと張りすぎた肩筋は!?」
「柔道部時代の名残が消えないのよ~」
片方の付けまつ毛をずらしたオカマの被告は、すっかり開き直り、煙草を揉み消した。
「そんな顔と図体で、男どもに何度も言い寄っただろ、向うが嫌がってるの知りつつ! それこそ地獄行きに値する蛮行であり罪!」
「プライベートじゃ少なかったわ。ほとんど仕事でよ。だってお客さんとらなきゃ、入ってくるものが―――」
“バン!”
叩かれた机の上で、アルミの灰皿が揺れた。
「だが地獄堕ちの一番の要因は、人殺しだ!」
「……」
「なぜ殺した!? 正直にゲロしやがれ!」
ぎょろ目に睨みつけられたごつい体格は、固まったままだった。
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