(三)

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 オープンから勤める羅麗華は、以前のトップホステスのプライドも手伝い、店に残った。―――はいいが、指名客はほぼ鈴蘭にとられ、瞬く間に配膳係同様に落ちていた。完全なる幕下陥落。 「でも、これは一時(いっとき)のもの。すぐに元の店に戻ると思ってたの」  潤んだ目を向けられた彼は、しかし眉一つ動かさず、無言を以て先を促した。 「だけどある日、とうとうママから解雇通知食らっちゃって」  沈んだ声は続けた。  客はとれないが精一杯やってきたと訴える羅麗華にくだされた理由は、驚くべきものだった。  入店以来、ずっと陰でねちねちいびられてきた。―――そう鈴蘭からクレームがついたから。  「もう我慢の限界っていわれちゃって」  ママはつらそうな表情を伏せた。  その台詞は、暗に自分か羅麗華どっちをとるかを迫っていた。  嘘だ! いびりではなく、彼女のことを思っての注意だ!  そう訴えようと考えたが、唇をかみ締めるママの顔は、事実を知っているそれだった。  怒りよりも悲しみに飲み込まれた羅麗華は、結局ごねはしなかった。  苦労してここまで店を維持してきたママに、これからはいい目を見させてやらなければ。それこそが自分にできる恩返し。なにしろ、この世界でここまで育ててくれたのはママなのだから―――。  また、要求を飲んだ由には、他店でもやっていける経歴、経験があると自負していたらでもあった。  が―――。  ただでさえ不況のこのご時世、四〇すぎのオカマを新たに雇う奇特な店は、いくら探せどなかった。  であれば自分で店を……など、貯金もほとんど底を突いている身で叶うはずもなく……。第一、自分についてくる客も後輩も、もういはしない。  ここにおいて、羅麗華は鈴蘭にたとえようもない怒りをわかせた。とともに、  自分の人生は間違っていたのか……。思い返すこととなった。 「自分の体質に気づいたのは高校、そう柔道部の部活のとき―――」  遠い目が続けた。 「袈裟固がはじめて決まった際に覚えた興奮は、これこそ“柔能く剛を制す”というものなのかしら!? という発見からのことではなかった。  相手の胸元のから覗く筋肉の隆起、絶え間なく吐かれる熱い息、それこそがあたしの本能に刺激を及ぼしていたの。  そして素早く返され、逆に縦四方固をかけられたときの天にものぼるような気持ち……」
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