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しかし羅麗華は、そんなアブノーマルと思えるような性質を隠し続けた。いえば必ず変態のレッテルを貼られ、実生活に支障が出る。苦しい青春時代だった。
苦悩が解かれたのは、就職のため都会に出てきてからだった。仕事のつまらなさが、仮面をかぶったままの人間関係に疲れた心が、
「素直に生きろ」
そう命じた。
「でもその結果がこうよ……。
結局間違っていたのよね……あたしの人生」
その台詞が、私にタッチパッドボタンをクリックさせた。
モニターに映しだされたのは、小奇麗に片づけられた部屋。
ベッドに腰かけている羅麗華。
煙草に火をつけると、空になった箱をひねった。
紫煙と同じく無造作な揺れを見せる上体。それが酔いのためであることは、眼前のガラステーブルに置かれたウィスキーボトルとロックグラスから想像できる。
氷が鳴った。
それが合図だったかのように、根元まで灰にした最後の一本を灰皿に押し潰すと、おぼつかない手はグラスのかたわらにあった小瓶をとった。
そして羅麗華は、中身を数えることなく一方の掌にあけた。
それを見つめる面に表情はない。
短くはない静寂。
白い錠剤の小山が一気に口に入れられた。立て続けにあおられるグラス。
数錠が口端からこぼれテーブルに広がったことなど意に介す気配も見せず、羅麗華はその身をベッドに横たえらせた。
と、枕元にあった携帯の着信音。
しかし、涙の筋を見せる目が開くことはなかった。
「てめえは大嘘つきだ!」
じっとモニターを睨みつけていた鋭い眼光が、被告を貫いた。
「死にたくもねえのに、自分殺しやがって!」
「でも、生きていても―――」
「黙れ!」
バンッと机を叩いた彼はやにわに立ちあがり、
「薬飲む前に、あんなにためらっていやがったじゃねえか! それこそが証拠だ!」
「……」
「しかもまったくひねりのねえ死に方しやがって! てめえなぞ、シタ抜いて地獄の最下層に堕としてやる!」
というが早いか、彼は文机をまわり込み被告の脇にくると、すかさずしゃがんで、ボディコンの下にあった板を引き抜いた。
あ~! との悲鳴が聞こえたのは、開いた真っ暗な奈落の、ずいぶん下方からだった。
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