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「はい」
「ありがとー」「ありがと!」
青年は少女達にカップを一つずつ渡すと、自らもカップを手に、壁に寄りかかってココアを堪能する。
「お兄ちゃん、今日は何の研究をしているの?」
「こないだは、『かみかくし』のお話を聞いたよ!」
双子が片手にカップを持ったまま、同時に勢い良く手を挙げると、青年はぶっとココアを噴き、しばしむせ込んだ後で。
「それ、外で言ってないだろうね」
と、困ったように眉を八の字に垂れた。
「言ってませーん」
「『きみつじこー』ってパパが言ってた!」
その機密事項を、幼いとはいえ、こうして部外者にべらべら喋って良いものか。恐らく葛藤が青年の胸中であっただろうが、いずれは世界の誰もが知る事実。双子の父である上司は目を瞑ってくれるだろう。パソコンに近づいて、手元を見ずに右手だけでキーボードを叩き、世界地図を映し出す。しかしそれは、青年や少女達が知る世界の姿とは、大陸や海の位置が異なるものだ。
「神隠しの中には、こことは違う世界に行ったとしか思えない者もいる」
この世界だよ、と青年が指し示す画面を、二対のつぶらな黒い瞳が見つめる。
「違う世界に行ったら、どうなるのー?」
「さあ、どうだろうね」
青年は肩を揺らしてくすりと笑い、男にしては細長い指で、画面をなぞる。
「それを向こうの世界の人達と話し合えるように、僕達は研究をしているんだ」
古来より、異界の住人は操る言葉が違う、というのが定説だ。この世界でさえ無数の言語があるし、宇宙人とは音や光で交信する映画が多く作られている。だから、丸ごと異なる世界の人間に、同じ読み書きを期待するのは困難だろう。
「話し合えたら、仲良くできるかな?」
「その時は、わたしたちが覚えた歌を、詠んであげたいな!」
いつの間にか青年を両脇から挟んでいた双子が、明朗に笑う。
「そうだね、お姫様達ならできるかな」
青年もつられて破顔する。
たとえ世界が不穏な空気に塗れていても、異世界と共存が難しくても、この穏やかな時間だけは、いつまでも続くように。
その願いは、女神に届くのだろうか。思案する青年の目の前のモニタの中では、『ENDY』の名が緋色に光っていた。
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