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家に帰るとシルビィが出迎えてくれる。無垢な笑顔、白い髪、赤い目、柔い肌、ミクルの匂い。
僕が手に入れた天使。
辛いことも迫りくる現実も忘れて、僕はとびっきりの笑顔に成る。笑顔ってものは作るものではないかという、現実添削者もいるかもしれないが。そんなな奴は天使の存在を知らないニートに違いない。
「オリヴァ。おかえり!」
「あぁ、シルビィ。いい子にしていたかい?」
「うん!」
僕がその頭に手を置いてよしよしと撫でてあげると彼女は幸せそうに眼を閉じて、放そうとした僕の腕をつかんで頬に寄せた。
「そうだ!」
何かを思い出したように振り返ったシルビィはそのまま私の手を引っ張ってリビングに向かった。途中、台所を横切った際にやけに散らかっていることに気づいた。
「じゃじゃーん!」
二人で食卓を囲むテーブルの上。いつもは帰ってきた僕が作るはずの料理がそこには並んでいた。ハンバーグだ。
「テレビでやっていたのをメモして作ってみたの! オリヴァが喜んでくれたらいいんだけれど」
その一瞬で私の心に幾へのも感情が回った。
勝手に台所を使うなんて危ないじゃないか!
すごい、君は天才だ!
そんな……僕のために!?
次第に感情が追い付かなくなって、訳が分からなくなって僕はシルビィを強く抱きしめた。
「わわっ」とよろけたシルビィだったが、すぐに優しく僕の頭をなでてくれた。
そして、急かすように僕をテーブルに案内してくれた。
「たべて! たべて!」
よほど感想を聞きたかったのだろう。期待に満ち溢れたその目を見つめてそれだけでお腹がいっぱいになりそうだった。
「いただきます」
一口食べただけで失敗作であることに気づいた。生焼けだし味が濃すぎる。さらに、時間も結構立っていたのだろうかなり冷めてしまっている。
ただネチョネチョする形だけハンバーグのナニカ。
「おいしいよ」
そう僕が言った瞬間彼女の表情はこの世のものとは思えないほど絵画的に輝いたが、その勢いで彼女は自身の皿に手を付けた瞬間表情は一変した。
曇った表情はやがて雨を降らした。
顔を真っ赤にしながら彼女は噛み締めるように泣いた。
「大丈夫、今度一緒に作ろう。そうして、また僕に作ってくれ」
「オリヴァ……」
シルビィはこらえるように俯いたまま何度も頷いた。
「それに、ほら。もうご馳走様しちゃったよ。ありがとう、シルビィ。おかげで明日も頑張れそうだよ。さぁ、お湯を沸かしてお風呂に入ろう。ポカポカな気分になったら、こんな失敗、すぐになんでもないことになるよ」
結局シルビィは自分の皿を平らげることはなく、寝るまで僕のそばを離れなかった。
「ねぇ、オリヴァ。明日もお仕事行くの?」
小さなあくびをして目をこすった後に、シルビィはそう言葉を漏らした。そして、言ってしまったことに「しまった」といった感じに申し訳なさそうに上目遣いになる。
そんなシルビィの頭をなでて、そのまま抱きしめた。
「ごめんね。でも、いつか二人でずっと一緒に暮らすために必要なんだ。僕はいつもシルビィのことを思っているから。どうか、どうか許してくれ」
そういうと、シルビィは少し力を入れて身をよじり僕から離れた。そうして、ベットの上で僕と向き合う。
「うん、わかったわ! 私もいっつも家の中でオリヴァのことを考えているから! わたしも家で独りぼっちは辛いけど、オリヴァもお仕事辛いんだもんね。だから、辛いことを頑張って。早く、しあわせになろうね!」
「あぁ、そうだね」
シルビィが小さな小指を差し出した。
僕の小指がその柔らかな指に巻き付く。
「約束!」
ゆーびきりげーんまん
うーそついたらー
はりせんぼん
のーます!
ゆびきった!
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