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7章:噂話
「金庫の中身は知らないわよだって私は下っ端ですもの!」
最初の証言者。リリーさんが自席で事務仕事をしている所へ行き、元へ行って何が盗まれたか聞いたが、そんな返答が返って来た。
「さっきも言ったけど、あの部屋は店長の個室で鍵掛かってたし何だか偉い人が来たりしてたから中に何が有るかなんて全然知らなかったのよ!多分副店長も中身が何だが知らない筈よ!」
そうか…中身が解らないってのにあの警部は探しに行ったのか…。
外へ出ると警部の姿は無かった。残っていた警官に聞いたところ、犯人を捜しに外へ出たそうだ。さっきも聞いたってことはあの警部、分からないのを知っている上で考えずに探している。
「そういえば、あの金庫は中々立派なものでしたね。この銀行は幾つくらい大きな取引をなさっているんでしょうか?」
先程と違い、機関銃の間に質問を投げ込むコツを学んだ俺は隙を見て尋ねる。
「何言ってんの探偵さん!ウチなんて見ての通り4人だけの小さな銀行よ!そんな大きなお金預かる訳じゃない!確かに店長さんは元々本店の方に居たらしくて偉い役職だったって話を聞いたけど二年前からここに居る訳だからつまり左遷させられたんじゃな…」
「リリーさん。ちょっと待って!下さい。本店に居たの?」
話に強引に割り込んでルイスが質問する。
「二年前まで本店の偉い役職だったらしいけど、何かしたのかしらウチに転勤してきたのよ!」
「そうだったんですか。」
「あぁ、そう言えば、あの金庫が来たのもその頃だったかしら?前の金庫もそこそこ良いものだったらいいんだけどなんか整備不良?だか何だかで回収されて……もしかしたらあの金庫の中にはとんでもないお宝が入ってて店長さんはそれを守るためにここに左遷されたフリして来た…」
「有り難う御座いましたリリーさん。ところで、あちらの本棚は誰が管理されているのでしょう?」
そう言ったルイスの指先には銀行の資料の本と思しきものが仕舞ってある本棚が有った。それなりに本が詰まっているが、遠目に見てそれぞれの段に丁度本一冊分。隙間があるのが見て取れる。
「あぁ、アレは店長さんが毎日整理整頓しているのよ…」
「有り難う御座いました。お仕事の邪魔をして申し訳ありません。それではカモヤ君。次へ行こう。」
「あぁ。リリーさん。それでは私達はこれで。」
話が長引く前に撤収したことは英断だったと思う。
「金庫の中。ですか?」
次に話を訊いたのはロゼさんだった。
「はい。あの金庫。かなり立派なものだと思いまして、その中身は一体何だったのか?と。」
「えぇと…。先程茶色の刑事さんにも話したんですが、私は知りません。店長室は基本的に店長さんしか入れませんでしたし、興味もありませんでしたから…。」
新しい情報は無し……か。
「そういえば、副店長さんは何処に居るんですか?姿が見えないんですが……。」
辺りを見回すが、確かにいない。出かけたのだろうか?
「はい。先程本社から連絡が有ったみたいで…なんだかとても先方はお怒りのようでした。」
そう言って一瞥した先には副店長のと思しき机が有った。
書類が散らかっておらず、小さな本棚のようなものに整理整頓されてペン立てや電話と共に机の右側に鎮座していた。
中々旧式の電話だ。あんなの僕は見たことが無い……あれ?
なんで僕は見たことが無い。なんて思うのだろう?僕のよく見る電話と形状が違う。そもそも固定電話が少ない。あんなの昔の小説で見た………アレ?
先程の金庫も、少し違和感が有ったが、周りに違和感しか感じない。
なんでだ?
「カモヤ、カモヤ、カモヤ君!大丈夫か?」
ルイスの大声に引き戻された。
「ぁあ。大丈夫だ。問題ない。」
「……。その問題が起きそうなセリフを敢えて信用してやる。が、何かあったら言ってくれ。」
そう言って副店長の事務机に向かっていった。
大丈夫だ。そう、大丈夫だとも。
「おーい、カモヤ君。見てくれたまえ。」
副店長の机を見回っていたルイスが何か見つけたらしい。
「何だい?」
ルイスの指差したのは机に置いてあったメモだった。恐らく電話連絡をした際の走り書きのメモだろう。
「これが……どうしたんだ?特に事件に関係のあるようなものには見えないんだが……?」
紙に何か透かしでもあるかと思って透かして見るが、何かが浮き上がることも無く、文章に隠された暗号でもあるかと思ったが、全然見当がつかない。
「この字さ。実に綺麗だと思わないか?僕が一文字当たり1分の時間をかけて真面目に書いたってこんな字にはならない。」
確かに、走り書きであるのだろうが、汚い字とは言えない、流れるような文字である。
「確かに綺麗だけど、それがどうしたの?」
「副店長に話を訊いた時、彼の取っていたメモを見たかい?ミミズが沢山蠢いたような到底文字とは思えない字だったんだ。」
「……あー、確かに。そういえば覚えている。読めないのは僕が字を読めないからだとばかり思っていたけど。そういえば字は読めてたんだ。あれ?じゃぁこれは別人の書いたものかい?」
「俺もそう思ったんだが、これを見てくれ。」
指差す先には日々の業務日誌が有った。それをおもむろに取り出して見せて来た。
「これは彼の字さ。彼のサインがあるし、間違いない。」
確かに、目前の日誌はメモ書きより更に綺麗な字が並んでいた。
「じゃぁ今日の彼は何であんな字を書いていたんだい?事件で動揺していた?」
「それもあるだろうが、一番の理由は彼が利き手と逆の手で文字を書いてたからさ。彼の今日の顔を見たかい?もの凄いしかめっ面だったろう?多分店長室の扉を破った時に肩を脱臼でもしたんだろう。相当痛かったんだろうな。」
確かに、彼の表情はもの凄い形相であったのは憶えている。てっきり忙しい中仕事を増やしたことに怒っていたんだとばかり思っていたんだが、
「あの表情はそう言う事か。……いや待て、なんでそれが分かるんだ?確か今日。彼は左手でメモを取っていたが、ここに彼が右利きである根拠なんて無いんじゃないか?」
「ペン立てに棚。それらの道具や資料が右に集結している。真正の左利きならペンなんて特に左側に置くんじゃないかい?違いますか?」
近くに居たロゼさんに答え合わせを求めた。
「えぇ、彼は確か右利きだった筈です。」
ドンピシャリ。彼の推理力は中々目を見張るものがある。が。
「だから何だって言うんだ?彼の利き手や怪我が分かった所で何になるんだい?犯人はもしかして彼なのかい?」
「あー…イヤイヤ。事件に直接関係はないさ。只、副店長は相当慌てていたんだな。と思って。あ、それより、カモヤ。もう一回現場を見てみようぜ。事件はもう解決した。」
「………………………………何!?」
どうでもいい発言の後に最も重要な発言が飛び出してきた。
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