与太勝負

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 わかってるよ。時間の問題だってことは。だから、刑務所にぶち込まれる前に、あんたに会いに来たんじゃねえか。なんでって、最初に言っただろ。俺はあんたと、嘘つきの勝負をしに来たんだ。  それなのに、あんたの弟子ときたらひどい。あの手この手で俺を門前払いにする。  いや、弟子に辿り着くまでも大変だった。下町ってのは、嫌なところだな。俺は華やかな芸能界か、隣家が五百メートル先のようなド田舎しか知らないから、下町に暮らす人間の底意地の悪さを知らなかった。道々であんたの自宅を尋ねる俺に、嘘ばっかりつくんだぜ。素直に従って歩いたら、永田町まで行っちまった。ああ、そうだよ。国会議事堂だ。さすがの俺も、国会議事堂があんたの自宅ではないことくらいわかる。……なんだ、その目は。途中で気づきそうなものだけどって……てめえ、俺のことをバカにしてんのか。いてこますぞ、コラ。  まあ、そんなわけで、クソみたいな住民をばったばったと薙ぎ倒し、ようやく弟子の元まで到達したわけだな。瀕死の俺に、しかし弟子は容赦ない。あんたの所在を尋ねれば、日本一高いところで(はなし)をしてみたいってんで、富士山まで行ったと言う。そんなバカな話があるかってんだ。俺を追い払うための嘘にしろ、もう少しましな嘘をつけと思った。  埒が明かないんで、日を改めて訪ねたよ。そしたら今度は、日本一でっかい湖で噺をしたいってんで、琵琶湖まで行ったと言う。あんたの弟子は、嘘をつく才能がねえな? あん? どれも本当だって? はは、あんたお得意の嘘はやめてくれよ。
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