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へえ? あたしは生まれてこのかた、嘘をついたことは一度もないって? その言葉がもう嘘じゃねえか。おい、なんでぷるぷる震えてんだ。耳たぶを掴む腕が痺れた? じゃあ、降ろせばいいだろ。だいたいなんで、耳たぶなんか触ってやがんだ。……なんだよ、その目。
俺はあんたが大嘘つきだって知ってるぜ。それも、とびきりのな。
親父の田舎は、何のとりえもない農村地帯だったけど、住民はとある男の名を、まるで土地神へ祈りを捧げるように語り継いでいた。いや、俺は最初、本当に土地神の名前だと思っていたんだ。だってよ、招福亭福福なんてふざけた名前、神様かと思うじゃねえか。そうだ。あんたの名前だよ。ま、人間国宝サマともなれば、神様とそう変わんねえか?
他人の成功に縋りついているようなクソ住民のおかげで、町にはあんたの落語が絶えることなく流れていたよ。スーパーまでもだ。そのうち、葬式は坊さんの念仏じゃなくてあんたの落語が流れているんじゃないかと、戦々恐々した。一種のノイローゼになりそうだった。スーパーっていったらあれだろ、ポポーポポポポってやつ。おい、笑うな。
ここでも同じことだ。俺の意思に関係なく、幼少期の人格形成に落語が刷り込まれてしまった。だけど、テレビで嘘の予言をしていた時と比べて、嘘八百の噺をくっちゃべっても、誰も怒らなかったな。むしろ、笑って言うんだよ。お前には才能がある。二代目招福亭福福になれるって。
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