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どうして落語をしなかったのかって? それ、答える必要があるか? 向いてねえだろ。あんたの嘘と俺の嘘とでは、質が違うんだ。あんたの嘘は、他人をしあわせにする嘘。俺の嘘は、他人を食い殺す嘘。
まあでもさ、刑務所にぶち込まれる前に、俺とあんた、どっちの嘘が優れているか勝負したくなった。あんたと弟子が結託してガードを固くするもんで、こうして強引な手段をとらせてもらった。住居侵入で訴えてもいいぞ。
さあ、俺の身の上話のどこに嘘が隠れているか、あんたわかるか? あんたの同情を引くために、全部がまるっきり与太ってこともありえるぜ。ケケケ。
その前に一つ質問をさせてくれ? 親父さんはどうしたって? 死んだよ。一年前に。葬式ではあんたの落語を流してやった。最期まで、ろくでもない親父だったさ。
もちろん、勝負というからには条件がある。負けた方が、勝った方の要望をなんでも一つ叶える。俺の嘘を、あんたが見破ることができればあんたの勝ち。見破ることができなければ、俺の勝ち。あんたは俺の身の上話を信じるか?
条件は一つだ。俺が勝ったら、あんたの弟子に加えてくれ。
刑期を終えて、娑婆に出ても、俺は許されたとは思えないんだ。どうしても。
俺のクソみたいな人生。
娑婆に戻ったその時は、一番にあんたの落語を聴かせてくれよ。
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