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 教師に案内されて教壇に立った彼は、ナポリ仕立てのスーツを身に纏っていた。まだ制服が仕立て上がっていないのだろう。リラックスした雰囲気を感じさせるそれは、もしかしたら転入の挨拶には相応しくないのかもしれない。けれどとてもよく似合っていて、それが上質なオーダーメイドだということはすぐに理解出来たし、同級生たちもそうなのだろう。そのスーツを見咎める者はいないようだ。  それより、彼がどう見ても東洋人だということが全員の興味を引いているのがわかる。私も、彼の切れ長の一重で黒い瞳と、黒い髪をつい見つめてしまう。  人をジロジロ見るなどはしたないことだとはわかっている。しかし、このフラグラード王国で東洋人を見かけることはほとんどない。 「皆様にお目にかかることが出来、光栄です。日本から参りましたミコト・クサナギと申します」  彼の言葉は素晴らしく流暢で淀みなどない。異国から来たとは思えない。  そう、異国から来たのだ。  この王立学院に、異邦人(エトランゼ)が入ることは滅多にあることではない。
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