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少しでも空気がおかしければ、シェルターのように私を囲んで、危害が加わらないように、敵対する状況を作らないようにと気を配ってくれる。彼はクラス内でのいざこざを嫌う。平和主義者なのだ。
「ミコト様のお話が楽しいのです」
そう返すと、ゼスフィルは肩をすくめて笑い、ミコトに声をかけた。
「ミコト、ナデシコにもお話しして差し上げろよ」
ナデシコ? 私のことだろうか。
ミコトと話していた女子生徒が、私を振り返って睨もうとし、声の主がゼスフィルだと気が付いてぱっと目を逸らす。
「ああ」
ミコトは明るく返すと、私に笑顔を向けた。
「ヤスミン様には、どんなお話を差し上げましょうか」
「あの……そうですね……私の生家は織物を扱っています。日本では、どのような織物が好まれていますか?」
「織物ですか。美しい物がございますよ。木綿も、麻も、絹も」
ミコトは、自分のバッグの中から、折り畳んだ大きなナフキンのようなものを取り出した。
「今手元にあるのはこれくらいですが……」
ふわりと机に広げられたのは、鮮やかな赤地に淡い桃色や紫のグラデーションで大輪の花が描かれた四角い布。
「素材は絹ですよ」
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