3

3/5

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
 少しでも空気がおかしければ、シェルターのように私を囲んで、危害が加わらないように、敵対する状況を作らないようにと気を配ってくれる。彼はクラス内でのいざこざを嫌う。平和主義者なのだ。 「ミコト様のお話が楽しいのです」  そう返すと、ゼスフィルは肩をすくめて笑い、ミコトに声をかけた。 「ミコト、ナデシコにもお話しして差し上げろよ」  ナデシコ? 私のことだろうか。  ミコトと話していた女子生徒が、私を振り返って睨もうとし、声の主がゼスフィルだと気が付いてぱっと目を逸らす。 「ああ」  ミコトは明るく返すと、私に笑顔を向けた。 「ヤスミン様には、どんなお話を差し上げましょうか」 「あの……そうですね……私の生家は織物を扱っています。日本では、どのような織物が好まれていますか?」 「織物ですか。美しい物がございますよ。木綿も、麻も、絹も」  ミコトは、自分のバッグの中から、折り畳んだ大きなナフキンのようなものを取り出した。 「今手元にあるのはこれくらいですが……」  ふわりと机に広げられたのは、鮮やかな赤地に淡い桃色や紫のグラデーションで大輪の花が描かれた四角い布。 「素材は絹ですよ」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加