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 揃いの制服を来た生徒たちが、同じ場所へ向かって歩みを進める。どこにでもあるような高等学校。そこに在籍する生徒の一人として、今、私はいる。  機関の技術を持ってすれば、このようなところに潜入するのも難しいことではない。少しばかり記憶操作を行い、周囲から見て違和感なく、あたかも初めからいるのが当たり前というように集団の中に紛れ込んだ。それもこれも、ただ一つの任務を遂行するため。 ──その任務というのは、 「アイさん、おはよう! 今日も早いんだね」 ──この男、空木(うつろぎ)優雨(ゆう)の暗殺である。 「おはよう」  慣れてきた声音で、機械的に返事をする。走ってきた様子のこの男は、少しばかりその息と髪を乱していた。蜂蜜色の瞳が、陽光を反射してきらりと光る。  この空木優雨という男を形容するとしたら、そそっかしい、という言葉が適切であろうか。そう思った側から、彼の持つ大きな鞄から派手な音を立てて教科書が落ち、廊下に広がる。驚いて情けない声を出す男をよそに、私はしゃがみこんで落ちたものを拾い集める。同じようにしゃがみこんで教科書を拾う彼に教科書を手渡すと、彼は照れたようにはにかんだ。 「ありがとう、アイさん」 「いいえ」  また機械的な返事をすると、男は私の隣に並んで、教室へと足を向ける。その足並みに揃えるようにして、私も止めていた足を動かした。  任務にあたって、私はまずこの男に近づき、観察することにした。  日頃の行動パターン、癖、性格、何を思い、何を考えるのか。それらを理解して、円滑に暗殺を行うために。  言い渡された期間は三ヶ月。どうしてこの男の暗殺を命じられたのか、それを理解してから殺すのも、遅くはないだろう。
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