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 その日も部活終わりに、男と帰路を共にしていた。普段は他の部員とも途中まで一緒にいることが多いが、今日は珍しく彼と二人きりだった。  これで場所が人気のないところならば暗殺するのも容易だったろうが、ここは人通りの多い場所で、実行に移すのも難しい。大人しく、機会を伺うのがいいだろう。  その時である。 「──危ないっ!」  どんっ、と肩に衝撃が走る。と同時に後ろから大きな音が聞こえてきた気がした。勢いを殺すこともできずに、地面に倒れ込む。私を突き飛ばした男はというと、私と車道の間に割り込むようにして、その上同じようにこちらへ倒れ込んできていた。腕の中に私を閉じ込めるように、両手を地面につけながら、こちらを見下ろしている。目が合うと、真剣味を帯びていた瞳に、安心を滲ませた。  どうやら、後ろから制御不能になっていたトラックが走ってきていたらしい。それはすぐそばのガードレールに衝突して止まっており、彼がいなければ、あの車の暴走に巻き込まれていたかもしれない。 「ご、ごめん! 咄嗟に突き飛ばしちゃって……! 大丈夫だった……?」  彼はハッとした様子で、体を起こして私の上から退いた。その後に同じく倒れたままの私に手を差し伸べて、引き起こそうとしてくれる。  立ち上がる瞬間に、露出していた膝の部分に大きくはないかすり傷ができていることに気づいた。気づかれないように、その部分を隠すように撫でる。 「問題ありません」  掌が過ぎた後には、傷一つ残っていない肌があるのみだった。 「よかったぁ……、怪我でもさせてたらどうしようって……」 「どうしてですか」  安心したように息を吐いた彼に問いかけると、言いにくいことなのか明らかに目を逸らし始めた。かすかにその頬が赤い気がする。 「アイさんのことが、大事だからだよ」  チラリと横目で私のことを見てきていた。その言葉の裏に隠されているであろうものを、私は理解できない。 「そう、ですか」  どうして異常なんてないはずの胸が、こんなにも痛みを訴えるのか、なんて。  理解できるはずも、なかったのだ。
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