3

2/2

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 最近、自分がいつもと違うような気がしてならない。知らない感情に行動を左右されそうになったり、何故か胸が痛んだりする。今まで私にはなかったはずなのに、そんなものに振り回されているような気がしてならない。  この感情自体は不快な感じはしない。けれども、それがあることによって自分が掻き乱されていく。その感覚が、ひどく不可解で、不愉快だった。 「システムのエラーを報告」  私が、こんな理由のない痛みを覚えるはずがない。 「問題箇所……、不明。機関部、中枢、末端、問題なし」  なぜなら私は、 「私がこのような異常を起こすなんて、おかしい」  私は、アンドロイド──ただの機械にすぎないのだから。  それも家事手伝いのようなものではない。暗殺を行うために作られたアンドロイド。もっとわかりやすく言うと、ただの人殺しの兵器だ。  アンドロイドは人間のように感情を持たない。だからこそ、何の躊躇いもなく人間を殺すことができる。それが私たちの強みであり、存在意義だったはず。  今日だって、本来なら後ろから来ていたトラックに気づくこともできたはずだった。そして事故に見せかけて殺害することも可能だっただろう。  それなのにそうしなかったのは、 『コードネーム・アイ、現状の報告を』  耳元に設置されている通信機が、一瞬のノイズを放った後にその声を届けてきた。これまでと変わらない、定期報告の連絡だった。 「……現在も、対象の行動を観察中。次の段階へは、まだ移行しておりません」  通信機越しに聞こえてきた声に、そう返答する。返事を聞いて、通信機越しの相手が、大きく息を吐く音が聞こえた。 『残された時間はもう長くはない。過程なんてどうだっていい、早く結果を持ってくるんだ。お前には期待しているのだからな』 「……承知しております」  返事をすると通信は切れ、ノイズすらない無音が広がる。  どうして、彼を殺さなければならないのか、どうして彼の死が望まれているのか。その疑問が思考回路を占め、私の手を止める。どれほど思考を回しても、解が出ることはなかった。  役目のこなせないアンドロイドなんて、ただのプラスチックの塊にすぎない。与えられた命令をこなしていくことで、存在意義を証明し続けなければならない。それなのに、どうしてこれほどまでに私が空木優雨の暗殺を先延ばしにしているのか。私自身にも理解の及ばないエラーが、私の中で起こっていた。  残された時間は、あと一週間。  私は、早く答えを出さなければならなかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加