第1話 本当に死んだら異世界なんて転生しない。あるのは悲壮感だけ。

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第1話 本当に死んだら異世界なんて転生しない。あるのは悲壮感だけ。

「つまらない」  僕はそう呟いた。  「つまらない」とは今この時点で、というよりも自分の人生に対して思っていることである。  このつまらない現代世界で「自分の人生は楽しい!」と胸を張って言える事はどんなにも幸せな行為なのだろうと僕は思っていた。  なぜそう思ったのかというと、それはとても簡単だ。自分の人生でそんな事を思った事なんて一度もなかったからだ。ただつまらない平穏な人生。僕はそんな自分の人生にもう飽き飽きしていたのだ。その所為かいつからか僕は無表情で無口な人間になっていった。  僕は高校を卒業しゲームプログラムを学ぶため4年生の専門学校に入った。なぜゲームプログラマーかというと、ただゲームが好きだっただけだ。そんなに深い理由はなかった。音楽やギターの方が好きだったが「ゲームを作って楽にお金を稼げるなら、そっちの方がいいかな」と安直な理由で進学した。  将来について考えたことなんてなかった。それが僕の今までの人生だった。ただ、理想はあった。 『早死にをしたい』  そんな願望だけが僕の中にはあった。    僕はロックが大好きだ。ギターもやっていたのでロックミュージシャンが大好きだ。そして、ロックミュージシャンと言えば「早死に」だ。 『27クラブ』という言葉がある。これはロックミュージシャンは「27歳」で他界した人が多く、欧米で彼らのことを呼ぶ時に使われる言葉だ。僕もこの 『27クラブ』に憧れて早死にしたいと考えていた。いっそのこともう少し若くてもいいとさえ思っていた。だから正直将来どこに就職しようが、さほど関係ないと思っていた。だってそうでしょ?僕は今20歳。あと7年程度生きれれば良いのだから。そんな風に僕は常に思って生きていた。    でも僕にもどう生きたいのか、それについては少し考えた事がある。 「どうせ短い人生なのだから、楽しくいろんな事やってみたいな」  そう思っていたのだ。  歳をとれば出来ないことが多くなる、そんな人生に面白さはなにもない。これが僕の考えだ。だから若い内にやりたいことをたくさんやり、やりきったら死ぬという人生を送りたいのだ。  この生き方を語ると周りからはあまり賛同はされなかった。「命は大事にするもの」だとか「周りが悲しむ」とかそんな事を言っていた。  正直僕には理解出来なかった。その理由は至極簡単なものだった。 『まだ大切な人を失っていないから』  そう、この時の僕は人間の「死」というものを経験していなかったのだ。だから周りの言っていることがなにも理解出来なかった。そして、「死」とは残された方がずっと辛いものだとわかっていなかった。   この現代社会「死」とは簡単なものだと解釈されている時代のせいもあったのかもしれない。僕はライトノベルが好きだった。そして当時一番盛り上がっていたジャンルそれは「異世界系」だった。 「死んだら転生できる」そんな非現実的なテーマの小説が人気を博し、死んでも楽しい来世があるなんて考えていたのかもしれない。   ただ現実はどうだろうか。そんなことはありえないし、それを証明する手段も方法もないのだ。 『「死」とは非常に重い物』  そうたくさんの周りの大人がそう言った。だがよく考えてみてくれ。その大人が「死んで転生して楽しく暮らしている小説」を書いているんだ。そして、それらはこの世界に溢れるくらいあるんだ。だったらさっさと死にたいと思う若者が生まれてもなんの不思議でもないだろう?    言葉には力がある。作品とは時には人を変える大きな存在にもなるのだ。作品とはそういうものだ。だったら僕みたいにさっさと死んでしまいたいと考える若者が生まれるのは「必然」だろうが。と僕は常にそう思っていた。  まだ大切な人に出会う、そしてそれを失った事のない僕はそう思っていた。    ただ、もし今この時点の僕に言えることがあるのなら、仮にもし伝える事ができるのなら。 「本当に死んだら異世界なんて転生しない。あるのは悲壮感だけ」  失ってからはでは遅い。空想の科学でタイムマシンがあるとするなら、そんなもんで昔の自分と彼女に会えるならそう伝えたい。
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