FOR YOU

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「宮野、明日はゾンビ状態で仕切るのか」  たった1時間前に上司に言われたことを思い出し、宮野香奈子は深くため息を吐く。  いつもよりも早い時間の電車に乗ると、周りには楽しげに話している学生カップルや飲み会帰りのサラリーマンがいる。いつも夜遅くに乗っている電車は人がまばらのため、今のように人が適度に乗っている電車は久しぶりだ。  ドア近くに寄りかかると、電車の窓ガラスに自分の姿がうつった。艶のない髪、疲れ切った顔。情けない自分の姿を見て、不覚にもまた上司の言葉を思い出してしまった。 「明日は本番なのに」  担当している大型ファッションイベントが翌日開催される。  今日までの仕事を振り返りながら窓の外を見ていると、降りる駅名がアナウンスがされた。電車が駅に着き、ドアが開くと、冷たい風が車内に吹き込んできた。十月に入ってから思いがけず冷たい風が吹くことも増えている。香奈子は風から身を守るために、慌ててトレンチコートの前を合わせて、電車から降りた。    入社してから五年。香奈子はようやく大きな仕事を任せてもらえるようになった。  これまでアシスタントばかりだった仕事とは気の入れ方も違う。企画会議、出展ブランドとの調整、設営業者との打ち合わせ。これまでの仕事以上にやらなければならないことが増えたが、毎日は充実している。  駅の改札を抜け、足早にアパートに向かって歩く。久しぶりに家でご飯を作って、自分を徹底的にケアしてから寝よう。そう考えながら、香奈子がスマホでスーパーの営業時間を調べようとしていた時に、目の端に明かりがついている店が飛び込んできた。これまで帰りが遅かったせいか、あまり気にとめていなかった店だった。
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