開幕-start-

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開幕-start-

 特別になりたい。  誰しも一度はそう思うことがあるだろう。  漫画の主人公のようなドラマティックな展開とまでは望まなくとも、自分はその他大勢の一般人とは違うのだと、自信をもって主張できる何かが欲しい――そういう渇望。  例えばスポーツなら、実用性は無いけどトリッキーな技を編み出してみたり。  例えば誰もやらなそうなマイナーな楽器を練習してみたり。  例えば密かに漫画や小説を創作してみたり。  そうして、多くの人間はあるタイミングで唐突に気付くのだ。  思い描いていた特別にはなれない、と。  この気付きは思うに、夢想の終わりであると同時に人生の始まりなのだ。  荒唐無稽な夢から醒め、現実的に達成できそうな目標へと視線を向けるためのきっかけ。  そういう意味では、二年前の私はまだ夢想を捨て切れていなかったんだと思う。  なにせ色々と現実が見えてくるはずの高校生だった当時、病魔という特異体質が世間に知られ始めたばかりだったのだから。  当時の私は浅慮にも、その特異な症状が自分にも顕れないだろうかなどと期待していた。  果たしてその期待は裏切られたわけだけど。  もし神様なんて存在がいるのだとしたら、違った形でその夢想を叶えてくれたのかもしれない。  なら、その采配には一応感謝したいと思う。  そうでなければ、私と「彼」の今は無かったのだから。
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