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僕はどちらかというと冴えない男だ。
特に顔も性格もよくない。
普通以下に分類する。
だから、人生なんて上手くいった試しがない。
スーツをだらしなく着こなし、ビールの入ったビニール袋を提げながら夜道を歩く。夜の街にはたくさんのカップル。仲良さげに手を繋いで、寄り添って。そんな奴らに嫌気がさして、深い溜め息を吐く。
雑踏を早足で抜け、ひと気ない一本道の先に人の行列が見えた。何だろう。スーツ姿の背中が、ズラリと街灯から浮かび上がる。飲み屋に並んでいるのか?
僕は興味本位でその列に近づいて行った。
その列の一番前には、自動販売機があった。
真っ白いツヤツヤの自動販売機。
「恋人自動販売機、今なら1980円!」
と書いてある。
恋人自動販売機?
並んでいる人たちは順に、お札を入れ好みのボタンを押し、出てきた赤色のカプセルを大事そうに抱えて帰って行っている。
あのカプセルの中に女の人のフィギュアでも入っているのだろうか。それを恋人と思え、という事だろうか。
僕の前の人の順番が回ってきたので、その自動販売機の商品の種類を見てみる。5種類ある。左から
「可愛い」「美人」「優しい」「女王様」
一番右は
「シークレット」
好みに合わせて買え、という事か?
前の少しぽっちゃりな男は右から二番目の
「女王様」のボタンを押した。僕は、ぷっと吐き出しそうになったのを必死で堪えた。
前の男は帰宅してから、女王様のフィギュアと遊ぶんだろうなぁと思うと口元が緩んだ。
ようやく僕の番だ。
自動販売機を見上げる。でも、完売ばかりでもう1種類しか残っていなかった。
一番右の「シークレット」
よく、残り物には福があるとか言う。仕方なく、僕は残り一つのボタンを押した。すると、すぐ〝完売〟が点灯した。
ガラン!とカプセルが落ち、拾い上げると金色のカプセルだった。福引とかでアタリが出ると出てくる金色の玉みたいだ。
ラッキー?アンラッキー?
僕はカプセルをポケットに仕舞い、ルンルン気分で家路を急いだ。
怪しく灯る街灯が伸びた影を照らしていた。
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