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『――真樹、ちょっと来てくんね?』
『えっ?』
式典もクラスごとの記念撮影も終わり、母と二人で帰ろうとしていた真樹は、思いがけず岡原に呼ばれた。
卒業式の後、女子が男子を呼び止めて制服のボタンや校章のバッジをもらう。――TVドラマやコミックではよく見かける光景だけれど、逆のパターンもあったのか。
『お母さん――』
真樹は「行ってもいい?」と訊ねるように母を見た。すると、「行ってらっしゃい!」というような頷きが返ってきた。
『ありがと、お母さん。あたし、ちょっと行ってくるね!』
真樹は岡原について、校舎の裏手へ。
『……なに? こんなとこまで連れてきて』
訝しげに眉をひそめた彼女に、岡原は学生服の黒いズボンのポケットに突っ込んでいた右手を真樹の目の前に突き出した。そして、「ん」と言いながら拳を開いて見せた。
『え……』
そこにあったのは、学ランについているはずの金色のボタン。でも、彼の学ランからはボタンが一つ残らずなくなっていた。
『どういうこと? なに、このボタン?』
『俺の制服の第二ボタン。お前にやりたくて先に取っといたんだ。他のヤツに取られたくなかったからさ』
ワケが分からなくなっていた真樹に、少し照れ臭そうな彼がそう答えた。
傍から見れば、この様子では岡原が真樹に好意を示したと思われるだろう。――ところが、彼の真意は真樹が期待していたものとは少しズレていた。
『ホントにいいの? あたしがもらっても』
『うん。だってさあ、今日はホワイトデーじゃん? 「チョコもらったんだから、ちゃんとお返ししろ」って友達がうるせえから』
『……へ?』
喜びかけた真樹は、彼の答えにマヌケな声を上げた。
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