プロローグ 同窓会の案内状

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「あんた、高校に入ってから誰ともお付き合いしてないでしょ? もしかして岡原くんのこと、まだ引きずってるの?」 「う……っ」  痛いところを()かれ、真樹は返事につまってしまう。 「もう忘れなさい、とは言わない。あれじゃ失恋したかどうかもはっきりしないし。だからって、このまま一生この恋に縛られてるつもり?」 「それは…………、まだ分かんないけど」  今の真樹には、そう答えるのがやっと。  もちろん彼女も、このまま現状維持なんて望んではいない。何らかの形でこの恋に決着をつけなければ……とは思っているのだ。  せめてもう一度だけでも、彼と会って話せたら……。 「――とにかく、あたしの問題はあたし自身で解決するからさ、大丈夫。じゃあね!」  これ以上この話題に踏み込んでほしくない真樹は、それだけ言うと逃げるようにレジへ。会計を済ませ、重たくなったエコバッグを肩から()げてマンションへと引き返していった。 **** 「――ただいま、佐伯(さえき)さん」  真樹はマンションに着くと、エントランス横の管理人室にいる初老の男性に挨拶した。  管理人――佐伯さんは六十代(なか)ば。ここの管理人歴は長く、マンションができた十五年前からだという。  このマンションの店子(たなこ)の安全はオートロックではなく、彼が守っているのだ。 「ああ、麻木さん! おかえり。――買い物かい?」  佐伯さんは好々爺(こうこうや)のような笑顔で、挨拶を返してくれた。 「はい、今日はカレーを作ろうと思って。一人じゃ食べ切れないんで、あとで持ってきますね」  父親のような彼にそう答えてから、真樹は管理人室の横にある集合ポストを覗いた。 
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