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気がつけば、中学生の時に通っていた塾、皇学館の前に立っていた。
当時とほとんど変わっていない。少し古びただけ。夜なのに煌々と点いている明かりが目立っていた。
塾の前の桜の木からはたくさんの淡い花びらが落ちて、地面に薄く積もっていた。
保科先生、いるかな。
想いを馳せると昨日のことのように蘇ってくる。
私はまだ子供で、保科先生への想いを告げることも示すことも出来なかった。他の生徒がファンクラブのようなものを作る中にも入らなかったし、表ではそれを見下して笑っていた。なんて馬鹿な子たち。そして、内心では思っていた。私も入れたらいいのに。
好きなのに素直になれない自分に毎日苛々していた。
でも、そんな私を保科先生は嫌ってはいなかった。むしろ気に入ってくれていたと思う。保科先生はよく私の頭をくしゃくしゃと撫でたし、構ってくれた。それは私が成績が良い生徒だったからに違いない。そしてもう一つ。私が物怖じせず、質問や不満を先生たちにぶつける変わり者だったからかもしれない。そういう意味で私はクラスでも目立つタイプだった。どの先生にも気に入られるのが分かっている傲慢さが当時の私にはあって、好かれるのを当然と思っていた。だから、私がどんなにへそ曲がりな行動をしても、保科先生は私を嫌わないという自信さえあった。そのくせ私よりお気に入りの生徒ができるのは我慢ならず、保科先生が他の生徒を可愛がっているのを見るとちりちりと心の奥が黒く焦げるのを感じた。
本当に中学生の私は子供だった。保科先生が既婚者であることさえどうでもいいほど純粋で向こう見ずで諦めを知らない心を持っていた。
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