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「……」
保科先生は目を見張って私を見た。私はそんな先生を挑むように見た。
保科先生はなんて返してくるだろう。
「告白したんですか?」
保科先生の言葉にちょっと私は笑ってしまった。
「違いますよ。付き合っていた彼に振られたんです」
「そう、ですか……」
保科先生はなんて言っていいかわからないように黙った。
「でも、そんなにショックではないんです。薄情でしょうか?」
保科先生はそう言った私を知らない人を見るような目で見た。私の胸がズキリと痛む。
「……貴女たちの世代はちょうど変化の著しいときなのでしょうね。もう、私の知っている佐倉とは別人のようです。恋もして、恋人もできて、そして別れも経験してしまうなんて」
保科先生は複雑な顔で言葉を絞り出すように言った。
「私ももう大学二年生ですからね」
「そうですか。二年生になりましたか」
「先生は変わりませんね」
私の言葉に保科先生は苦笑する。
「私はもう老いていくのみですよ」
確かに30後半の先生は白髪が少し増えた気がする。でも、それ以外ちっとも変っていないように思えた。
「いいえ、先生は素敵なままです」
「佐倉がそんなことを言うのは珍しいですね。いつも私をけなしてばかりだったのに」
「子供だったんですよ」
私の言葉に、保科先生は寂しそうに笑った。
「大学二年生というと、何歳になるのかな」
「私は浪人してるので、二十一です」
「そうか。もう、お酒も飲める年なんですね」
「はい。先生?」
「なんですか?」
「また会いに来てもいいですか?」
「もちろんですよ」
「先生とお酒、飲んでみたいです」
私の言葉に保科先生はちょっと驚き、そして目を三日月のように細めた。
「以前の生徒と酒を酌み交わす。それはそれでよさそうですね」
先生の言葉に思わず安堵のため息が出た。
「よかった! じゃあ、また来ます」
時計は二十二時を回っていた。
「暗いから途中まで送りましょうか?」
「大丈夫です。バス停はすぐそこですので。先生、約束ですからね」
「はいはい」
私は飛び跳ねたいような気持を抑えて、バス停までの夜道を歩いた。
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