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◇◇◇
「ねえねえ、知ってるかい?あそこの娘さん!」
「お前、まぁた賭け事でお金すったのかい!」
「あそこの料理絶品なんだよ。今度一緒に行こうぜ!」
「おいおい、男爵家の御令嬢が結婚するってよ!!」
多くの噂話が行き来するここはヒトの暮らす街。
俺はシェフィのご飯調達のため、ヒトに姿を変え街中を訪れていた。
先程俺が閃いたことは至極単純である。つまり、作れないなら買えばいい!!
いやぁ〜、ヒトの暮らしに慣れてないからそこに辿り着くまでが遅かったよ〜。
そうだよねぇ、何も俺が作る必要がない。
「そこのお兄さん!うちの焼き鳥は美味いよ!一本どうだい?」
.....焼き鳥かぁ〜。うう〜ん、病み上がりのシェフィには重いよねぇ〜。
人混みをかき分けふらふらと市や店を物色していく。
どこがいいかなぁ.....。
鍛冶屋、靴屋、焼き鳥屋、果物屋、書店、服屋.......。
店っていろいろあるんだなぁ.....。そういやシェフィの着ていた服は着古していそうだったし、2着ほど動きやすそうな普通の服が欲しいなぁ....。
こちらの店は果物か。果物はシャキシャキしてて美味しいよね。りんごとか、葡萄とかな。俺もよく食べるし。まぁ買う必要はないけども。
何軒かシェフィに必要そうな物が売っている店を記憶に留めつつ.....。
「ここかな....?」
大体徒歩10分ほどの場所にあった大通りに面している一軒の店に決めた。
パン屋、「蜂蜜堂」
「こんにちはぁ〜。」
チリンチリンと軽やかな音を立てて扉が開く。
中は素朴な感じ。お客さんも2、3人ほどいるね。さて店主さんは....っと、
「ご婦人がここの店主さんですか?」
俺の挨拶に、いらっしゃい!と気持ちいい挨拶を返してくれた女の人。歳は30ぐらいか?
「いいえ、違うわ。うちの旦那が店主なのよ」
見るからに優しいヒト。魔力の濁りも殆どない。きっと夫婦仲は良好で日常に満足しているのだろう。
「そうなんだ〜。奥さん、聞きたいことがあるんだけどいい?」
「ええ。何かしら?」
「今俺、病み上がりの子をお世話してて。でさ、その子が食べやすいパンってある?」
正直言って俺はどれがどんなパンか全く分からないんだ。シェフィは大体5歳ほど。ヒトの子は繊細だからやっぱ良し悪しあると思うんだ。折角ならいいもの、特に子どもの体にあうものにしたい。
「病み上がりの子....あー、じゃあそこのパンはどう?」
ほらここのだよ。そう言って指を刺したのはふわふわしてそうな白いパン。
「これ?」
「ああ、そう。白パンよ。薄ら塩がかかっていて体にいいのよ。パン自体がふわふわしているから幼い子どもも食べ易いし、なにより美味しいわ!そこらのパン屋じゃ手に入らないうち特製のパンなのよ!!」
ほうほう....。調べても特に問題あるようではない。奥さんの説明通りならシェフィも食べやすいだろうな.....。
「少し味見出来ない?」
「味見?勿論よ!」
そう言って、奥さんは店の奥から持ってきたパンをひとかけら俺にくれた。
「むぐ.......、うん、美味しいな!!十分に美味しい!」
「そうでしょ?うち自慢の味なの。」
いや、ふわふわした食感と僅かな塩味がすごく良い。食事なんて滅多にしないが、これは俺でも美味しく食べられるな。
「奥さん、これ買いたい!」
「毎度あり!いくつ欲しい?」
あ〜っと.....シェフィのご飯3食分だから.....。
「3つ頂戴!!」
「は〜い!」
奥さんが手際良く袋に詰めてくれる。ってそうだ!!
「ねえ、奥さん。」
「何?」
「俺お金を持ち合わせて無くて......。代わりに魔石での支払いでいい?」
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