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「でもさあ、ばかみたいっていうか……Kちゃん全然懲りていないの。次は動画サイトにチャンネル作って、そこで配信してるよ。丸の内OLだって、笑っちゃう。あいつ、どんだけ嘘つきなんだろうね。ここだってとっくに辞めたし、あの子が制服持ち逃げしたから私服勤務になったじゃん。まあ、そのほうが気楽だけどさ」  動画サイトには、「丸の内OL、Kちゃんつぶやき日記」なるチャンネルが出来上がっていた。  Kちゃんは、持ち逃げした紺のベストとスカートの制服を着て、小首をかしげて、すましたように笑っていた。膝には私から借りたまま返していない、ショップのノベルティになっていたミニトートを置いていた。 「借りパクされてる、最低」  並んだのにね、とSがそっと私をなだめるように、肩に手を置いた。  あたたかさに、泣きそうになったけれど、ぐっとこらえる。  サムネイルに使っている、Kちゃんの顔が、輪郭が、不自然にゆがんでいることに気づいて、泣いたら負けな気がしたから。  補正だけじゃない加工をしていることだって、素人目にもわかるぐらいに。    Sは「観察する感じで見ているけれど、こんなことしていたらいずれ、会社にばれるよ」と呆れるように言っていた。  案の定、Sの言う通り仕事中に「注意喚起」という件名で社内のアカウントへ一斉にメールが送られた。    
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