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第七章
壁に刻んだ満月の印が、百二十を超えた。彼はこれだけの間、村で息苦しい日々を送りながらも、主張を撤回せず耐えてくれたのかと、エスタは「リベラ」を見上げる。
彼の墓から芽生えた胡桃が、立派な木となって穴の上まで枝を伸ばし、光芒の牢の機能をついに奪った。彼の願いを叶えるために、踏み出すときだ。
まずはリベラの育った村へ行き、彼を長年の悪魔役から解放する。そのための台詞は何年も、熱心な役者のように練習してきた。
「聖なる大地が、かの悪魔を浄化し、私を帰してくれました」
この嘘だけは、つきとおさなければならない。脱獄を試みたあの日、恐ろしい落下のさ中に、リベラが打った布石なのだから。
エスタが悪魔の汚名をすすげるように。二度と害されることのないようにと。
そして、それだけでは気が済まないエスタは、追加の台詞を考えていた。
「私は実りを司り、地に宿る天の使い」
我ながら恥ずかしくなる。実りを助ける力はあれど、地に下りたのは単に羽を切られたからで、天から与えられた使命もない。
けれども大きな目的があるから、誇張にも目を瞑る。歪になった翼の意味も、ないとはいえない怨恨も、胸にたたんでおく。
「私の恩ある胡桃の木を守ってくれるなら、あなたがたの畑に豊作を約束しましょう。……これでいいわよね、リベラ」
「リベラ」の安全と、彼が憎みきれなかった村の安泰。それが確かなものになったら――いよいよ、自由だ。村を出て、旅をする。遠く遠く、彼と一緒に、どこまでも歩いていく……。
腰にしっかりと、「リベラ」の実入りの袋を結わえて、エスタは温もりある木を抱きしめた。
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