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光の粒、水滴の目印が、消え去った。
陰りの元凶を見定める間もなく、背後で大判の布を振るったような音がした。土埃が舞い上がる。砂粒が頬を叩き、視界を奪った。滲んだ涙の熱さがしみて、さらに涙が出る。
ただでさえ渇いているのに、余計な水を使わせるなと言いたくて、苦くざらつく唾液で喉をこじ開けた。しかし機先を制し、また声がした。あろうことか、すぐ近くから。
「ご、ごめんなさい。お手伝いしようと思って来たのよ、でももう少し、遠くに降りるべきだったわね……」
そういう問題ではない。地中の牢に自ら飛び込んでくるなんて、こいつは何を考えているんだ? この高さをどうやって? 俺は何て言うべきなんだ?
混乱しつつ、リベラは決めた。これしかない。「馬鹿野郎」だ。冷やかし、愚行、土埃、全部ひっくるめて、その一言で事足りる。
腕で顔を拭った。ヒリヒリする目をなんとか開けて、招かれざる客と向かい合う。
――舌の上で、準備していた言葉が転げた。口をつく間に変質する、その手綱は握れなかった。
「悪魔……」
ふわりと、砂色の空気が動いた。
「私はエスタよ。悪魔じゃないわ」
目の前には少女が立っていた。荷を運ぶ背負子ではなく、咲きたての花のように艶やかな、白い翼を背に――十年前と、変わらない姿で。
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