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「もしかして君、ここが探偵社だから飛び込んで来た? 探偵なら協力してくれると思って」
少女は眉尻を下げ、唇を震わせた。泣きだす一歩手前の目だ。やばい。
コンコン。
慌てた僕の鼓動に合わせるように、ドアの方からノックの音がした。
振り向くと開けっ放しのドアの手前で、背の高い痩せぎすの中年女性がこちらを見つめている。新たな依頼人らしい。事務員は休日の連絡をHPに掲載し忘れたのだろうか。
「すみません、十日ほど休業にしてるんです。ご依頼でしたら来週の月曜日にお願いします」
「あら、その女の子の依頼は受けて、私は追い返すんですか?」
思ってもいなかった反撃だ。つり気味の切れ長の目で、女性はまるで僕を品定めするように眺めまわし、威圧的に腕組みする。
「いや、この子は依頼人じゃないし、とにかく休業なので出直してください」
負けて成るものかと大きな声できっぱり言うと、女性は不満そうな表情でドアを閉め、退散した。
「僕、間違った事言ってないよね」
思わず少女に愚痴をこぼしたが、その子はその子で、それどころじゃ無いようだった。さっきの僕の質問が、やはりきつ過ぎたらしい。
「ごめんなさい、帰ります。すみません」
「猫は探さなくていいの?」
出て行こうとする背中に声をかけると、少女は潤んだ目で振り返った。
「お金がかかるし、探偵に依頼する事なんて出来ない。でも誰かに手を貸してもらってどうしても猫を探したい……。だろ? いいよ、猫探しは専門外だから、依頼料無しで一緒に探してあげる」
「本当ですか!」
少女の顔がパッと輝いた。
ああ、俺ってなんていい奴。満更でもない気分で、メモパッドを引き寄せる。
「毛色と特徴は? いつ頃いなくなった?」
「白黒のメスで、しっぽは長いです」
「白黒ならハチワレかな?」
「え?」
え?
僕はメモパッドを渡し、大まかな柄の特徴を絵で描いてもらった。前髪をセンター分けにしたような、よくある柄。やっぱりハチワレだ。猫を飼ってるのに、知らないのだろうか。
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