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1週間前に転校してきた学校で、ようやく出来た友達、沙良ちゃんに、明日は家族が誰も家にいないし、遊びに来ない? と気さくに誘われたらしい。
前の学校では友達の家に遊びに行くことなどほとんど無く、とても緊張はしたけれど、萌絵ちゃんは地図を見つつ、その家に訪ねて行った。
ところが何度インターフォンを押しても、沙良ちゃんは応答してくれない。 その代わりに門扉の方に走って来たのは、その子が飼っている猫、ナナだった。何度も写真を見せてもらったので間違いはない。一度も外に出したことのない箱入り猫だと聞いていたが、きっと隙間から勝手に庭に出たのだろう。自分が捕まえてあげようと思い、門扉を薄く開けた所、猫はそのまま外に飛び出して行ってしまったのだという。
「だからあんなに必死で探してたんだね。友達の大事な猫だもん」
僕の言葉に、萌絵ちゃんは頷く。
「自分の猫だと嘘をつく理由はないですよね」
岡部さんがボソリと言ったが、とりあえずその言葉はスルーして、僕らはナナの飼い主の家に向かった。そこから歩いてすぐらしい。
「先に友達に電話してあげた方が良いよ。猫の事も、君が遅れた事も心配してるかもしれないし」
「あ……、あの、スマホはまだ、持っていなくて」
チクリと胸に針が刺した感覚。岡部さんが横を歩きながらチラリと僕に視線を寄越す。分かってる。この子はまた嘘をついた。
『マップを見ながらも、時間ちょうどにたどり着いた』とさっき語った萌絵ちゃんの指の動きは、明らかにスマホ操作だった。きっと彼女はスマホを持ってる。
「連絡取れないと、不便だよね」
そっと訊いてみる。
「一応、電話番号はメモしてるので、もしよかったら――」
「貸しません。自分ので掛けなさい。持ってるんですよね、スマホ」
身もふたもなく岡部さんは言い放ち、僕の方がギクリとした。なんでこの人はこんなにストレートなんだ。案の定萌絵ちゃんは再び硬直した。その手の中でナナが暴れたので、逃がさないように僕が抱き上げる。
「いいじゃないですか、きっと何か理由が――」割って入ろうとしたその時、萌絵ちゃんが声を上げた。
「前の学校のグループチャットで嫌がらせされたんです!」
今度は思わず僕がナナを落としそうになった。
切羽詰まったその声で、僕は初めてこの少女が抱えたものが見えた気がした。僕の中に有った、遠い日の自分と重なって、胸が苦しくなる。
「萌絵ちゃん……」
「だから、この学校では、最初から持って無かったことにしたくて……。でも、クラスの一人にアドレスとか訊かれて持ってないって言ったら、あいつ生意気ってだって、嘘ついてるのバレバレって言われて。でも悪いのは私だし、もうどうしようもないし。結局どこに行っても同じで、ダメなのは全部自分のせいなんだって諦めようって……。でも、沙良ちゃんだけは違ったんです。皆に相手にされてなくても普通に話しかけてくれて、だから、私――」
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