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ああ、やっぱりそうなんだ。
思った通り不器用すぎる。
どこか綻ぶたびにこの子はそうやって小さな嘘で取り繕って身を守りながら生きて来たんだ。
その嘘が自分の居場所を狭めているんだって気づいても、なかなか修正できずに、自分の撒いた石に延々と躓きながら生きてるんだ。なんてこった。
「もういいよ、分かったから」
できるだけ優しい声を出した。
「その友達の猫を逃がしてしまって、どんなに君が慌てたか、すごくよく分かった。それだけ分かればもう充分。辛い事まで話させてしまってごめんね。友達ん家までついて行ってあげるから、もう泣かなくていいよ」
潤んだ目を見開いて萌絵ちゃんがこっちを見たが、こんなセリフを吐いた自分に僕自身がこっ恥ずかしくて、助けを求めるように岡部さんを見た。なのに岡部さんは肩をすくめて目を逸らした。薄情もの。思わず腕の力を強めたので、猫はニャンと鳴いて僕の指に噛み付いた。
「痛!」
「ナナ!」
僕の声をかき消すように後ろから甲高い声が上がった。
振り返ると、横の路地から慌てた様子で駆け寄って来る少女と目が合った。
萌絵ちゃんと同じくらいの背格好。ずいぶんと走り回っていたらしく、頬は紅潮し、額に汗が滲んでいる。
「沙良ちゃん!」
「!」
やっと萌絵ちゃんの存在にも気が付いたらしく、その子は混乱したように萌絵ちゃんと僕と、そして僕の抱くナナを何度も見比べた。そりゃあ混乱もするだろう。
僕はとりあえず猫を飼い主の腕の中にそっと戻し、微笑んであげた。
「猫は無事だよ」
僕の指は無事じゃないけど。
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