名もない希望のペンダント

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「おい、待て!」  男たちも走り出す。闇夜の逃走劇がはじまった。 警察は機能していない。一部の富裕層のためだけに活動する組織となっていた。通行人も「人助け」という考えなどとうにない。皆がこの世界を諦めている。  息を切らして走る。背後から迫る足音。 街中を縫いながら進んだ先は、巨大なコンクリート壁だった。もう逃げ場はない。 「へへへ。大人しくラピスの雫をよこしな」  男たちはじわりじわりと距離を縮める。 「渡すわけないでしょ」  紗良は男の顔を見た。炭を薄く塗ったような仄暗(ほのぐら)い頬、欠けた前歯、正義に唾を吐いて生きているような野卑(やひ)なまなざしをしていた。 「けっ。だったら無理やり奪うまでだ。行くぞ」  男たちは腰から鉄パイプを引き抜くと、高く振りかざし紗良に襲いかかってきた。
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