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「ええ、聞きました」
まるで通夜の場で話しをているようである。声を出さずに息を震わせ伝え合う。サ行ばかりが良く聞こえる。
「どうなってんでしょうかねえ」
「どうなってんですかねえ、まあ行ってみますか」
廊下の壁伝いを忍び足で歩いた。共同トイレから激しい咳き込みが聞こえる。二人はそっと覗いた。毛むくじゃらの外国人が「クワッ」と睨んだ。二人は廊下を走って逃げた。
「なんですかあいつは?」
則夫が訊いた。
「あの人はインド人ですよ。数日前にレストランで隣になりました」
「喋ったんですかあいつと?」
「いえ」
「じゃどうしてインド人だと?」
「頭にターバン巻いてました、ターバンなら大概インド人でしょ」
二人は船の後部に進んだ。自衛隊がガスマスクをして乗船を始めた。機関銃を手にしている者もいる。
「なんですかあれは?」
艦内アナウンスが流れる。
『あっあっ、私は厚労省の者です。ただいまより乗船の皆様には検査を致します。全員です。問診を先に済ませ、問診の結果順にドクターが一室ずつ回りますのでお願いします。それまで部屋から出ないでください。ドクターと一緒に客船スタッフが同行します。必需品等はスタッフに伝えてください。こういう状況ですから、多少のことは諦めてください。皆様のご家族が暮らす日本を護るための処置です」
「何ですか今のは?」
「犯罪者扱いじゃないですか」
二人はレストランに向かった。
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