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「残念ながら手品じゃありません」
金原仙人は黒く縁取った名刺を差し出した。
「仙人、金原武」
「ええ、二年前から仙人やってます。あなたがカモメになりたい、そう思った、それが私に強く通じたので馳せ参じました。特に急がなければまた今度ってことも出来ますよ」
「船のショーじゃないの?」
「残念ながらカードも使えない。花札のこいこいなら少し分かりますけど」
正子は金原仙人のジョークに少し気分が和らいだ。
「この船の事どうなってるか知ってる?新型ウィルスで大変なことになってる」
「流行病ですね。残念ながら神の想定ですからどうにもなりません。この病で亡くなる方は予め組み込まれているのです」
「私達ここから出られるのかしら?」
その時ドアが五回ノックされた。正子はドアに近付いた。金原は窓を擦り抜けた。
「山」
「海」
「あなた、無事で良かった。この人仙人、あれ」
「どうした?」
「今まで仙人がいたの」
「何を馬鹿なことを言ってる、しっかりしなさい。それより大変なことになってる。自衛隊が機関銃も持ってパトロールしている。それもガスマスクを着けてだ」
「どうして機関銃なんて、戦争じゃあるまいし」
正子は増々事態が深刻になることに自然と涙が溢れた。
「さっき仲間が出来た、問診に続き医者が検査に来る。それが終えたら電話で連絡を取って一緒に逃げる」
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