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無人島に漂流してから10日ほどが経った。たぶん10日だ。もしかしたら正確には1週間なのかもしれないが、そんなことはどうでもよい。今の僕には食料問題の方が重要なことだった。
何か食べ物は残っていたかな?僕は一緒に漂流したリュックの中を探る。前の小さなポッケの中から黒くて四角い物が見つかる。ずっしり重量感のあるそれは、羊羹だった。
この羊羹は船旅の御守りとして、ある人が持たせてくれたものだ。船旅に出発する前日、地元の神社へ旅の安全祈願に行った。そのとき顔見知りの巫女さんが、この羊羹をくれた。
「暗闇を凝縮したみたいな黒い羊羹でしょ。とても深い暗闇の中にこそ、希望の光があるものなんです」とその巫女さんは言った。
希望の光?なんであのとき、そんなこと言ったんだろ?でも、その言葉が今の僕には深く突き刺さる。この羊羹は命をつなぐ希望そのものだ。
僕は少しだけ食べようと袋を開けて、羊羹を二つに割る。その瞬間、目の前が真っ暗になる。羊羹の暗闇に僕は覆い尽くされてしまう。
「おかえりなさい。ご無事で何よりです」その声で僕は目を覚ます。羊羹をくれた巫女さんが僕を見下ろしている。ここはどこですか?と尋ねると、〇〇神社のベンチですよと教えてくれる。
さっきまで無人島にいたんです。乗っていた船が沈没して、無人島に漂流して、それで…巫女さんが僕を制する。「すべてわかっていました。悪いことが起きる予感はしていましたから。だから、あの羊羹を差し上げたんです」
羊羹の暗闇には希望が詰まっている。
「その通りです。この場所まであなたを送り届けるように、羊羹に祈りを込めました。だから、本当にご無事でよかった」そう言った巫女さんは少し涙ぐんで、僕の手を握る。その温もりは確かにそこにあった。希望の暗闇が導いてくれた温もりが確かにそこにあった。
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