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俺はハッと目が覚めた。
耳に飛び込んでくるのは、いつもと変わらぬ退屈この上ない、読経のような酒井の朗読だった。
安堵、そして驚きのためか、俺は思わず席から立ち上がってしまった。
ガタン!という大袈裟な音が教室中へと響き渡る。
クラスメイトの視線が一斉に、いきなり立ち上がった俺へと注がれる。
「あ…済みません…」と俺は曖昧に謝りながら席に着く。
教室のそこかしこから忍び笑いが響いてきた。
あぁぁ、恥ずかしい…
左側から視線を感じる。
恐る恐る左の席を見遣る。
俺のほうを見ていた三矢杜琴羽と視線が交わる。
ドキン!と心臓が脈を打つ。
その黒々とした色合いの瞳は、夢の中で俺が縋り付いたものと同じだった。
え?と思ったとき、三矢杜琴羽は既に教壇のほうへと視線を向けていた。
そして、残りの古文の授業中、俺と再び目を合せることは無かった。
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