絶望と言う程では無い何か

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絶望と言う程では無い何か

ワイドショーを見ていた。 ワイドショーは俳優の不倫を、 そして健康食品のCMを 囂しくがなり立てている。 世田谷。 俺の心は次第にババアになって行く。 俺の心はババアになる。 心のババア、それは53歳のトメだ。 トメは専業主婦だ。 28歳の一人息子である達也はニートだ。 達也がこの時間、寝ているのか 起きているのか定かではない。 トメは歌舞伎揚を次から次へとボリボリ食べつつ ヘルシア緑茶を飲んでいる。 そして、ドブのやうに濁った眼で テレビを見ているのだ。 チャンネルを変える。 教育番組だ。 幼い少女とサボテンのキャラクターが クイズ遊びをしている。 見ていると脳が溶けて行く。 そして、俺の心はガキになる。 それは、3歳児のヨシオだ。 ヨシオは食い入るように画面を見つめる。 ヘラヘラ笑いながら画面を見つめる。 されど、ババアのトメは消えた訳ではない。 願わくば、(53歳+3歳)÷2=28歳 などになって欲しかった。 けれども、俺の心には53歳のトメと 3歳のヨシオが併存しているのだ。 対消滅などせずにカオスは残置しているのだ。 絶望という訳でも無い、 それに名を付ける事すら無為とも思える、 どうしようもない無気力感と怠さが 俺の心を満たしていく。
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