サツキ

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サツキ

海原を隔て見える山々。 その表を埋め尽くす段だらな緑。 その色合いは、最早、新緑のそれではなく。 新緑が醸していた初々しさや清新さ、 それらが最早感じられぬ代り、 その緑からはふてぶてしい力強さすら感じられる。 間も無く訪れる梅雨の時期、 その後に待ち構える陽の季節。 押し寄せる猛き季節を迎え撃つ為、 その初々しさをかなぐり捨て、 力ある色へと己を変えたのだろう、この山々の緑は。 やがて巡り来る、 荒々しくて力に漲る季節と格闘せんがために。 雨を喰らい、陽を貪り、 葉を茂らせ、地を穿つ為に。 そのために、春の慶びを捨て去ったのだろう。 海原を渡り来る五月の微風。 どこか角が立ったようなその微風は、 やや重さを孕み、 そしてやや湿り気をも孕んでいるようであり。 その重さもその湿り気も、 明日の雨の報せなどでは無く、 押し寄せつつある軍勢の如き梅雨、 それらの先触れのようにも思え。 五月の微風が波立てる海面、 その波立ちは何処か慌ただしくもあり。 雲間から時折覗く陽の光に柔らかさは無く、 不如帰の囀りは鳴りを顰め、 稲の苗を受け入れた田には蛙の哄笑が満ちる。 優しき季節と猛き季節との狭間にて。 ea0d7ef8-7827-4341-ab19-14f5184a8626
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