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そして、一番謎なのが、俺のクラスメイトの大浦琴羽だ。
間違い無く、彼女こそが今回の『俺拉致られ事件』の首謀者なのだろう。
大浦琴羽はクラスの中では全く目立たない生徒だ。
忍者かよと思わせるほどに、クラスの中でのその存在感は薄い。
まず、見た目が地味だ。
その黒髪は頭の後ろで一本の三つ編みに結われていて、その顔にはレンズも分厚そうな黒縁メガネを掛けている。
分厚い黒縁メガネのせいか、その表情はいつもよく分からない。
漫画などでメガネキャラが悪巧みしている時にメガネがキラーンと光り、その瞳を見えなくしている演出があるが、大浦琴羽は常にそんな感じなのだ。
背丈は160センチほど。
女子の中では普通といったところだろう。
クラスの中で誰かと仲良く喋っているところを見掛けたことは無い。
休み時間も一人だし、弁当を食べるのも一人だ。
要するにボッチだ。
かと言って、そのボッチの様が目立つことは無い。
ごくごく自然にボッチをしている。
悲壮感や孤独感など一切漂わせないボッチぶりだ。
普通、クラスの中にこんなハードなボッチが居たならば、クラスの中で気の回る、そして優しみに溢れた誰かがその孤独っぷりに心を痛めて話し掛けてみることが一度や二度はありそうなものだが、こと大浦琴羽に限ってはそんなことは一切ない。
そんな気持ちを誰にも起こさせないほど、ごく自然にボッチをしているのだ。
プロのボッチなるものがこの世に存在するならば、大浦琴羽こそまさにそれだろう。
もちろん、部活にも入っていない。
放課後など何をしているかも一切不明だ。
また、謎なのが、誰もこの大浦琴羽の噂などしないという点だ。
そのボッチぶりがクラスメイトの興味をひいて、あれやこれや想像や妄想に基づいた噂話が飛び交い、それがいつしかあらぬ悪口へと姿を変えてしまう、そんなことは全く無い。
誰も大浦琴羽の噂話をしようとする気すら起こらないみたいだ。
良くも悪くも他人の興味を全く惹かない、それが大浦琴羽なのだ。
そんなボッチの権化の如き大浦琴羽が、東高中の学生の羨望の眼差しを一身に集める千歳兄妹と一緒に行動し、しかも、何故かタメ口を聞いている。
『東高の女神様』たる緋南先輩が、どこかへりくだった態度すら取っている。
大浦琴羽がこの場を仕切っている感すらある。
地味極まりないプロボッチなのに。
謎だ。
本当に、謎だ。
そして、その大浦琴羽は、いつの間にかその左手に何かの棒を携えている。
校門で俺が拉致られた時は、そんなもの持っていなかった。
真っ直ぐでなくて緩やかなカーブのある、長さが1メートル程度の黒く塗られた棒だ。
ところどころは糸や布なんかで巻かれている棒だ。
棒と言うよりも、なんか刀っぽい感じだ。
と言うか、刀そのものだ。
漫画や映画でよく見掛けるような、鞘に納まった日本刀だ。
本物かどうかは分からないけど。
多分、模造刀の類だろう。
いや、絶対にそうあって欲しい。
なにしろ、ここは夜を迎えつつある病院なんだ。
日本刀はあんまり似合わないと思うんだ。
それともアレか、ヤクザの親分とかがここに入院してて、これからカチコミでも掛ける積もりなのか?
しかし、殺気だった雰囲気などは全く漂わせていない。
その表情は、いつもながらよく分からない。
眼鏡がキラーンと光ってその下の表情がよく分からない、そんな感じだ。
でも、こうして大浦琴羽の姿を眺めていると、彼女を何か見えない膜が覆っていて、それが彼女の存在感や雰囲気をカムフラージュしている、そんな感じがしてくる。
つくづく謎ばかりだ、この大浦琴羽は。
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