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「やっぱり心配だけど、私も帰って一度休まないと明日に響くのよね……」
「そうですよ、只埜さんは明日は日勤なんですから、帰ってちゃんと休んで下さい」
未だ心配なのか悩む只埜さんに帰宅を勧めると、渋々ながら帰宅することを選んだ。いつもより心なしかゆっくりと着替え、鏡を見て髪を丁寧に夜会巻きに結う。長羽織を着て荷物を持つと、私の方へと向き直った。
「じゃあ、またね典子ちゃん」
「はい。お疲れ様でした、只埜さん」
只埜さんは、シャンデリアが煌々と照らす看護婦詰所から出て、頼りないウォールランプの微かな光だけが等間隔に灯る薄暗い廊下の先へと消えていった。
只埜さんがいなくなると、自分の作業によって起こる些細な音や、壁際に取り付けられた柱時計のカチ……コチ……という時を刻む音が気になってしまうほどに、辺りはしんと静まり返ってしまった。
日勤しか経験のない新人看護婦の私には、夜の病院の雰囲気が昼のそれとは全く違う場所にいるように感じられ、知らない場所に独り取り残されたような感覚に襲われる。
少し怖がりなところがある私は、辺りを変に意識してしまうと怖くなって何もできなくなるかもしれない。他のことをなるべく考えないようにして、私は仕事に没頭した。
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