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慌てて持っていたカンテラを近くの棚の上に置き、その小さな身体を抱きとめる。
耳隠しになるように整えられた明るい茶色の髪から、抱きついてきたのが偲月ちゃんだとすぐに分かった。
「どうしたの、偲月ちゃん?」
偲月ちゃんはお腹に埋めていた顔を上げ、独りで泣いていたのか潤んだ瞳で、私を見つめる。
「お姉ちゃん、稔ちゃんがいなくなっちゃった……」
「稔ちゃんが?」
普段二人が使っている寝台に目を遣ると、言葉通りそこに稔ちゃんの姿はない。
「厠に行ったとかじゃないかな?」
私の考えに偲月ちゃんは頭を激しく左右に振って否定する。
「稔ちゃん、寝る前に一緒に厠に行ったよ?」
同じ寝台で寝ること然り、稔ちゃんは偲月ちゃんの症状を気にしていつも一緒にいるから、厠に一緒に行くのも頷ける。勿論、厠の中では別れているとは思うけど……
とにかく、稔ちゃんが厠に行ってないというなら、何処に行ってしまったのか捜さなければいけない。偲月ちゃんが寝たら、病院の隅から隅まで捜しまわるしかなさそうである。
「分かった、私が後で稔ちゃんを連れて戻ってくるから、偲月ちゃんは先に寝ちゃおうか」
「うん……」
素直に頷いてくれる偲月ちゃんを寝台に連れて行って寝かしつける。
その最中、ギシ……ギシ……と誰かが扉の前を通り過ぎる音が聴こえ、私は背筋を凍らせた。
一瞬、稔ちゃんじゃないかと思ったけど、彼女じゃ体重から考えてそこまでの音はしない。床板を沈ませるような重い足音が立つのは、大人が歩いた時だけである。
「お姉ちゃん?」
心配そうにこちらを伺う偲月ちゃんの姿を見て、慌てて何もないように取り繕う。
「何でもない。大丈夫だよ、偲月ちゃん」
そう言って偲月ちゃんを眠らせた。
さっきは怖がってしまったけど、もしかしたら稔ちゃんのように部屋を出ている患者さんがいるのかもしれない。人数は少ないけど、大人の患者も入院している。
稔ちゃんを捜すために、私は再び薄暗い廊下へと足を進めた。
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