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急いで扉の鍵を閉めてから、偲月ちゃんを連れて寝台の下に隠れる。それから何も見えないように抱きしめた。
「お姉ちゃん?」
突然の私の行動に目が覚めたのか、何が起きているのかも分からず不安げに私を見る。そんな偲月ちゃんに身振り手振りで静かにするように伝えて、私は扉の方を見つめた。
もしかしたら鍵を閉めてしまえば大丈夫かもしれない。僅かな希望に賭けて施錠をしてみたけど、その目論見は失敗に終わった。
ガタンッ……
何かが壊れたような音が響いた。
音に驚き、声をあげそうになる偲月ちゃんの口を必死に抱きしめて塞ぐ。
ギギィ……
一瞬の静寂の後、ゆっくりと扉が開かれる。
ギシ……ギシ……
床の軋む音と共にあの女性が部屋に入って来た。この位置からでは女性の足元しか見えない。
「ワ……ヲワ……テ……シヲ……セ……」
女性は部屋の中央まで来て立ち止まると、先程と同じように意味の分からない言葉を呟いている。
元々私以上に怖がりな偲月ちゃんは、頑張って堪えてはいるけど、いつまで叫ばずにいられるか分からない。
━━早く部屋から出て行って……!
体の震えをなんとか抑え、偲月ちゃんを強く抱きしめ、何度も何度も繰り返し願う。
だけど、女性は一向に部屋の中央から動こうとしない。偲月ちゃんはもう堪えられそうにない。
━━もう駄目っ……!
諦めかけたその時、状況に変化が訪れた。
ギシ……ギシ……
床の軋む音と共に女性は部屋を出て、階段とは反対の方向に向かって行った。
姿が見えなくなり、ほっと安堵のため息をつく。すると、偲月ちゃんが顔を私の体から離し、こちらを見た。
「お姉ちゃん、今のはなに?」
「ごめんね、偲月ちゃん。もう少しだけ静かにできる?」
異様な事態に混乱している偲月ちゃんに静かにするようにないお願いする。黙って頷いてくれた偲月ちゃんの頭を撫で、寝台の下から出て私たちは扉の近くに移動した。
音を立てないように注意して近寄り、そっと顔を出して廊下を覗くと、ちょうど女性は隣の病室から出て次の部屋に向かうところだった。
どうやら私のことをしらみ潰しに捜してまわっているらしい。
女性が次の部屋に入って行くのを確認すると、私は偲月ちゃんと手を繋いで階段を下りる。偲月ちゃんはただならぬ状況を察してなのか何も言わずについて来てくれた。
階段を下りるとそのまま玄関へと向かい、今度こそ取っ手を握り、扉を開く。
「偲月ちゃん、さあ早く出よう?」
そう言って先に外に出してあげる。偲月ちゃんは外に出ると、戸惑ったように振り向き、玄関から出ない私を見た。
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