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「お疲れ様です!」
『お疲れさま、』
オフィスのある新宿駅を西口に出たところに出来たワインバル。
小さめの丸テーブルを3人で囲い、一番人気メニューのサングリアを傾け、少し大きめの声でお疲れ様と言い合う。
薫ちゃんが、聞いてくださいよ!とグラスを置き終わる前に言うと、困り眉で私と空木くんを交互に見た。
「ちょっと、私別れそうです。」
『また?例の、広告マン?』
彼女が入社してまだ2年目の半分だが、この手の話はよく聞いている。
恋愛体質の薫ちゃんは経験が豊富だ。
男たちに様々な男たちに一喜一憂し、コロコロと表情を変えながらその経験談を赤裸々に話してくれる。
経験が皆無に近い私は、そのことがバレぬように歳上の女として話を聞くのがいつもの流れ。
「そ!です。んあ〜あいつ…、」
はぁと短く息を吐き出して、伏せめがちに薫ちゃんは続ける。
「ドMなんですよね…」
うっ、と口に含んでいたサングリアを吹き出しかけた。
隣では空木くんも、グッと変な声を出して笑っている。
どえむ、なんですよね。
頭の中で字面をなぞっては、ぎくりと心臓がうごく。
なんて話だ。
いや、今までも薫ちゃんとはこの手の話をしてきたけれど…。
「あっ、別に、性癖があるのは良いんです。そうじゃなくて…」
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