愛の天秤棒

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『愛の天秤棒」  お互いの愛情に疑問を持っているカップルが愛の神様の前に列をなして並んでいる。  愛の神様は、神様の道具である『愛の天秤棒』で愛に迷えるカップルの愛の重さを測って見せてくれるという。 『次の者たち』  神様の声で目の前のカップルが神様の前に進み出た。 「私は彼女のことが大好きです」男が言う。 「私も彼のことが大好きです」女も言う。 「彼女の愛には負けません」 「私だって彼の愛には負けません」 「僕の方がより彼女を愛してるんだ」 「いいえ、私の方が愛してます」 「そんなことはないよ、絶対僕の方だ」 「いいえ、絶対私よ」 『よいよい』神様が二人を遮って続けた。 『それではお前たちの愛を心より取り出して、この天秤のお皿の上に乗せなさい』  男は自分の心から彼女への愛を取り出し、女も自分の心から男への愛を取り出し、二人は天秤棒のお皿の上にそれを乗せた。 『それでは重さを測ってみましょう』神様がそういうと、天秤は大きく右に左にと振れ、その振れが収まると男の乗せた愛の方へ少しだけ傾いた。 『男の愛の方が少し重いと出ました』と愛の神様が愛の重さを告げる。 「ほら、僕の愛が重かったじゃないか。言った通りだろう」 「私、あなたのことを海の底よりも深く愛していると思っていたのに、あなたはそんな私よりももっともっと私のことを愛してくれていたのね」 「当たり前じゃないか、僕の愛はこの世界の果てよりも大きいんだ」 「嬉しい。これからはあなたの愛に負けないように私もあなたを世界の果てよりも大きく愛するわ」 「あぁ、僕たちの愛は永遠だ。神様ありがとうございました」  そう言って、カップルは仲良く手を繋ぎ、神様の元をさっていった。 『次の者たち』  美男美女のカップルが愛の神様の前に進み出た。 『愛の重さを測って欲しいのはお前たちか?』 「あっ・・・はい」 「ねぇ、あなた私のこと愛してる?」 「あっ、あぁもちろん愛してるさ」  男は冷や汗を流した。 「本当?」 「本当だよ」 「本当に本当?」 「あぁ。本当だとも」 「どれぐらい愛してるの?」 「それは・・・、それは君と同じぐらいさ」 「でも、あなたは嘘つきの女たらしだから信じられないわね」  神様は二人の言葉を遮った。 『よいよい。それではお互いの愛を心より取り出して、この天秤のお皿の上に乗せなさい』 「まぁ、僕が君のことを愛しているのは間違い無いけど、まだ日も浅いし、さっきの男のようにはいかないかもしれないけど、愛は日々育てていくものだからさ」と言って男は予防線を張った。 『それでは重さを測ってみましょう』  神様がそういうと、天秤は大きく右に左にと振れ、その振れが収まると、ピタリと天秤棒が水平を保ったまま止まった。 『お前たちの愛はどちらも同じ重さです』  男はそれを聞きほっとした顔になった。 「まぁ、僕の方が重いと思ったけど、どちらも同じならよかったよ」 「あらそうね。よかったわ」  男も女もこの結果にほっとした。  愛の神様は天秤から女の愛を取るとそれを彼女に返した。 『おやっ!』 「ん?」 『これはこれはおかしなことに』 「どうかしたんですか?」 『男の心が残っているのに天秤が傾かない。天秤に男の心が残っている以上、愛があれば天秤は傾くはずなのだが・・・』と、神様が首を傾げる。 「やっぱり嘘つき。あなた私のことを愛していないのね?」 「・・・お前もな」 『愛の天秤棒』でした。
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