第9話

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「嬉しいです。僕、日本茶が好きなんですよ」  美原さんはそう言って、お茶を飲む。姿勢が良い人だ。弁護士さんなんだけど、教室の日はバッチを付けてこない。わざわざ外してるみたいなんだ。そういうところ、気を使ってくれるのも嬉しいな。 「あの、美原さん。例のお返事なんですが」  僕はテーブルの向かい側に座って話を始めた。 「ああ、大丈夫です。わかっていますから」 「え?」  美原さんは眼鏡のブリッジをつんと指で突き、口角を上げる。 「今日の先生の様子を見てわかりました。やっぱり、先生は鹿島さんのこと好きなんですね」  わ……。なんだか美原さんに言われるとめっちゃ艶めかしい。凄く恥ずかしいよ。でも、そうなんだ。人にわかっちゃうくらい、僕の感情って出ちゃってるんだな。 「ごめんなさい」 「謝らなくていいです。あの日……僕がレッスン後に訪ねた日、鹿島さんの姿を見て気付いていましたから。それでも、ダメ元でもいいと思って告白しました」  美原さんの言葉が胸に刺さる。もっと早く、ちゃんとするべきだった。 「それじゃあ、僕、帰ります。お茶、ありがとうございました」  玄関へと向かう廊下。僕は美原さんの後ろを付いて行く。広い背中が少し小さく見えた。肩を落としているのかな。そう思うとやっぱり申し訳なく感じた。 「あっ! な、なに?!」  気まずさが僕の胸にじわっていた時、突然電気が落ちた。エアコンの稼働音も吹っ切れたから、停電だ。それともブレーカーが落ちたんだろうか。 「美原さん、大丈夫ですか?」  玄関のタタキに向かっていた美原さんに声をかけた。 「ああ……駄目だぁ」 「どうしました!?」  音はしなかったから落ちてないはずなのに。なんだか苦し気な声が聞こえて僕は驚いた。だけど、その後の方がもっと驚いた。真っ暗な中、僕は美原さんに抱きしめられた。 「なんで、暗くなるんだよっ」  そんならしくない乱暴な言葉とともに、僕の唇が塞がれた。 「んんっ! ん!」  必死に振りほどこうとした。だけど、壁に押し付けられた体が動けない。乱暴にキスをする美原さんは、いつものクールさとは全く違い荒々しかった。  そんな行為に、僕は思わず反応してしまったんだ。
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