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「嬉しいです。僕、日本茶が好きなんですよ」
美原さんはそう言って、お茶を飲む。姿勢が良い人だ。弁護士さんなんだけど、教室の日はバッチを付けてこない。わざわざ外してるみたいなんだ。そういうところ、気を使ってくれるのも嬉しいな。
「あの、美原さん。例のお返事なんですが」
僕はテーブルの向かい側に座って話を始めた。
「ああ、大丈夫です。わかっていますから」
「え?」
美原さんは眼鏡のブリッジをつんと指で突き、口角を上げる。
「今日の先生の様子を見てわかりました。やっぱり、先生は鹿島さんのこと好きなんですね」
わ……。なんだか美原さんに言われるとめっちゃ艶めかしい。凄く恥ずかしいよ。でも、そうなんだ。人にわかっちゃうくらい、僕の感情って出ちゃってるんだな。
「ごめんなさい」
「謝らなくていいです。あの日……僕がレッスン後に訪ねた日、鹿島さんの姿を見て気付いていましたから。それでも、ダメ元でもいいと思って告白しました」
美原さんの言葉が胸に刺さる。もっと早く、ちゃんとするべきだった。
「それじゃあ、僕、帰ります。お茶、ありがとうございました」
玄関へと向かう廊下。僕は美原さんの後ろを付いて行く。広い背中が少し小さく見えた。肩を落としているのかな。そう思うとやっぱり申し訳なく感じた。
「あっ! な、なに?!」
気まずさが僕の胸にじわっていた時、突然電気が落ちた。エアコンの稼働音も吹っ切れたから、停電だ。それともブレーカーが落ちたんだろうか。
「美原さん、大丈夫ですか?」
玄関のタタキに向かっていた美原さんに声をかけた。
「ああ……駄目だぁ」
「どうしました!?」
音はしなかったから落ちてないはずなのに。なんだか苦し気な声が聞こえて僕は驚いた。だけど、その後の方がもっと驚いた。真っ暗な中、僕は美原さんに抱きしめられた。
「なんで、暗くなるんだよっ」
そんならしくない乱暴な言葉とともに、僕の唇が塞がれた。
「んんっ! ん!」
必死に振りほどこうとした。だけど、壁に押し付けられた体が動けない。乱暴にキスをする美原さんは、いつものクールさとは全く違い荒々しかった。
そんな行為に、僕は思わず反応してしまったんだ。
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